『ル・アーヴルの靴みがき』 『レンタネコ』 試写
本日は試写を2本。
『ル・アーヴルの靴みがき』 アキ・カウリスマキ
アキ・カウリスマキにとって長編映画としては5年ぶりの新作であり、『ラヴィ・ド・ボエーム』(91)以来、2本目のフランス語映画となる。その『ラヴィ・ド・ボエーム』は観ておいたほうがよいと思う。マルセル・マルクスが再登場するだけではなく、物語がそこから再構築されているところがあり、現在のカウリスマキの境地を理解する手がかりになるからだ。
映画を観ながら、昔カウリスマキにインタビューしたとき、空間の造形についてこのように語っていたのを思い出した。
「時代についてはいつもタイムレスな設定をしようという気持ちがあります。たとえば普通は、70年代と50年代の家具を組み合わせるようなことはしないと思いますが、わたしは同じ画面のなかにいつも異なる時代を混在させています。 そして最終的には50年代へと戻っていく傾向があります。わたしは実際にその時代を体験したわけではありませんが、とても好きな時代なのです。誰もが経済的には貧しかったが、とてもイノセントで、もっとお互いに助け合い、幸福な時代でした」
そういうセンスにさらに磨きがかかっている。カウリスマキが、『浮き雲』(96)、『過去のない男』(02)、『街のあかり』(06)という三部作を完成させたあと、どういう方向に向かうのか大いに注目していたが、これまで暗示的に表現されていたものが具体化され、新たな次元へと踏み出していて、素晴しい。
どこかで取り上げるつもりなので詳しくは書かないが、たとえば、昨年末に公開されたレイ・マイェフスキの『ブリューゲルの動く絵』(11)に通じる視点があると書けば、ヒントになるかもしれない。
『レンタネコ』 荻上直子
荻上直子監督の作品は、『バーバー吉野』や『恋は五・七・五!』の頃からだいたい観ていると思うが、残念ながらこれまで心から面白いと思えたことがない。
筆者はかなりの猫好きで、猫を飼っていた時期も長いし、買い物に出れば近所のビルの谷間や駐車場にいる猫に見入ってしまうし、ときどき訪れる鎌倉の猫のポイントもかなりおさえているし、昨春の東北旅行では台温泉の吉野屋旅館と東鳴子温泉のいさぜん旅館の愛すべき猫との出会いがよい思い出になっているし、想田和弘監督の『Peace』に出てくる野良猫たちは愛おしかったが、荻上監督の新作の猫にはなにも感じなかった。きっと相性が合わないのだろう。