ゲラ・バブルアニ 『ロシアン・ルーレット』 レビュー

Review

アウトサイダー的俳優陣が放つ存在感

ロシアン・ルーレットが描かれた作品として多くの人が真っ先に思い出すのは、おそらくベトナム戦争を題材にしたマイケル・チミノ監督の『ディア・ハンター』だろう。この映画では、反政府組織の捕虜になった主人公たちがロシアン・ルーレットを強要される。そして彼らのひとり、ニックは精神を病み、この死のゲームにとり憑かれていく。

他にも、たとえば北野武監督の『ソナチネ』(93)では、沖縄の抗争に巻き込まれ、浜辺の廃屋に身を隠している主人公のヤクザが、舎弟とロシアン・ルーレットをはじめる(舎弟は青ざめるが、後で弾が入ってなかったことがわかる)。

エミール・クストリッツァ監督の『アリゾナ・ドリーム』(92)では、自殺願望を持つ娘グレースが、主人公アクセルにロシアン・ルーレットを持ちかける。ダニー・ボイル監督の『ザ・ビーチ』(99)では、タイの孤島にある秘密の楽園のリーダーが、他人に情報を漏らした主人公リチャードに、1発だけ弾を込めた銃を向ける。


ロシアン・ルーレットは生と死をめぐる緊迫した状況を生み出す。しかし、それと同時に異なる側面に注目する作品もある。

カジノの場面からはじまるフアン・カルロス・フレスナディージョ監督のスペイン映画『10億分の1の男』(01)では、意外な設定と展開が最後にロシアン・ルーレットに結びつく。旅客機の墜落事故でただひとり生き残った主人公トマスは、謎の男に導かれるように、強運を試すゲームに引き込まれていく。それに勝ち抜けば、世界一の強運を持つ老人サムに挑戦する権利が得られるというのだ。結局トマスは、愛する女性を守るために老人と勝負することになる。

この映画における強運とは、他者を犠牲にし、運を奪って生き延びることを意味する。かつてホロコーストを生き延びたサムは、30年間負けたことがない。そんな老人との勝負はロシアン・ルーレットで行われる。弾を5発込めた銃の弾倉を回転させ、まず挑戦者が老人に向かって引き金を引く。挑戦者が圧倒的に有利なはずだが、そこには強運が作用する。

ゲラ・バブルアニ監督が『13/ザメッティ』(05)を自らリメイクした『ロシアン・ルーレット』が描き出すのも、生と死をめぐる緊迫した状況だけではない。秘密の会場で大金を賭ける顧客たちは、明らかに強運を持つプレイヤーを求めているし、強運や経験を信じてもいる。そして、殺伐としたステージに立つプレイヤーの運命も、他者を犠牲にして、運を奪って生き延びるドラマと見ることもできるだろう。

そんな顧客とプレイヤーの駆け引きや壮絶なサバイバルをリアルに表現するためには、演技以前にまずそれぞれの俳優が漂わせる存在感が重要になるが、この映画のキャスティングは実に興味深い。すでにハリウッドでイメージが定着しているような俳優ではなく、いろいろな意味でアウトサイダー的な資質を備えた俳優が起用されている。

たとえば、ドラマの鍵を握るサム・ライリー、レイ・ウィンストン、ジェイソン・ステイサムは、いずれもアメリカではなくイギリス映画界、そのなかでも主流ではなく周縁から頭角を現してきた俳優だ。ライリーは『コントロール』(07/監督:アントン・コービン)で、内面に不安と狂気を抱えたジョイ・ディヴィジョンのボーカリスト、イアン・カーティスを、昨年の東京国際映画祭で公開された『ブライトン・ロック』(10/監督:ローワン・ジョフィ)では、誰も信じられない病的なギャングを演じ、立て続けに影のある複雑なキャラクターを体現してみせた。

ウィンストンは、かつて『ニル・バイ・マウス』(97/監督:ゲイリー・オールドマン)で妻に暴力を振るうアル中の父親を、『素肌の涙』(98/監督:ティム・ロス)で娘との近親相姦に溺れる父親を演じ、強烈な印象を残した。世界的なスターとなったステイサムも、ガイ・リッチーと出会い、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(98)に出演していなければ、別の道を歩んでいたかもしれない。さらに、スウェーデン出身のアレックス・スカーシュゴードなども、このイギリス勢に加えてもよいだろう。

一方、アメリカ勢でまず印象に残るのが、ミッキー・ロークとカーティス・“50セント”・ジャクソンだ。実人生を反映させた主演作『レスラー』(08/監督:ダーレン・アロノフスキー)で復活を遂げたロークと、自ら主演した半自伝的作品『ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン』(05/監督:ジム・シェリダン)で俳優デビューを飾った50セント。それぞれに過去を背負うふたりが絡み合っていくところも見所のひとつになっている。

それから『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(08/監督:サム・メンデス)で精神を病んだ青年を、『ランナウェイズ』(10/監督:フローリア・シジスモンディ)でクセ者プロデューサーを好演したマイケル・シャノン、インディペンデント映画の父ジョン・カサヴェテスの作品で活躍したベン・ギャザラ、人気挌闘家で『ゴジラ FINAL WARS』(04/監督:北村龍平)や『パブリック・エネミーズ』(09/マイケル・マン)で俳優としても活躍するドン・フライも、異端的な空気を漂わせている。

『ロシアン・ルーレット』では、アウトサイダーたちの個性が引き出され、火花を散らしていく。だから既成のアメリカ映画とは異質なエッジやリアリティを感じるのだ。

(初出:『ロシアン・ルーレット』劇場用パンフレット)

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