ロネ・シェルフィグ・インタビュー 『ワン・デイ 23年のラブストーリー』
ある一日の意味、水のイメージ、音楽と時の流れをめぐって
『幸せになるためのイタリア語講座』や『17歳の肖像』で知られるロネ・シェルフィグ監督の新作『ワン・デイ 23年のラブストーリー』は、デイヴィッド・ニコルズの同名小説の映画化だ。
主人公は、作家を目指す堅実なエマと自由奔放で恋多き男デクスター。映画ではイギリスとフランスを舞台に、大学の卒業式で初めて言葉を交わした二人の23年に渡る歩みが、7月15日という「1日」だけを切り取って描き出される。もちろんその日に何か特別なことが起こるとは限らない。
「結婚するとか、子供が生まれるというような記念日がすべて同じ日になることはありえません。それが、原作者が本の中に作り出したゲームなのです。人生の中で特別ではなかった日が、実はとても大事なのかもしれないということを教えてくれます。「二人が初めて一夜を共にしたのに、その日を目撃できないなんて!」と思うこともありました。でも、そこがとても優雅で映画的だと思います。しかも、最後に秘密が明かされた時に、なぜこの一日が描かれていたのかがわかります」
この映画は、2006年にプールで泳ぐエマをとらえた導入部から時間を遡り、1992年の二人のバカンスでもプールが際立ち、1994年にはエマと別の男性が土砂降りの雨の中で急接近するなど、水のイメージが印象に残る。
「映画の中で雨を降らせるのが大好きです。素晴らしくメランコリックなイメージがあり、また、雨を使うことで年ごとに変化をつけることができました。確かにエマと水については何か特別なものがあると思います。彼女が泳ぐ姿を水中からカメラが見上げるシーンは、悲しい出来事を予感させるような、とてもダークなショットになっています」
この映画のサウンドトラックには、ティアーズ・フォー・フィアーズやファットボーイ・スリム、プライマル・スクリームなど、それぞれにある時代を想起させるナンバーが収められているが、どのような基準でそれらを選択したのだろうか。
「それぞれの年を代表する曲として誰もが選ぶような曲ではないかもしれませんが、いつ頃流れていたのかすぐにわかり、思い出が甦ってくるような曲を選ぶようにしました。歌詞もドラマに合わせたかったので、時には別の候補も当てはめてみて相性を試したりしました。とても面白いチャレンジになりました」
ヒット曲は時代を表現するのに役立つが、強調しすぎるとドラマの雰囲気を壊すこともある。その点、音にとても気を使うというシェルフィグ監督の使い方は実にさり気ない。
「時間の流れをなるべく目立たないようにすることで、映画の最後の方でようやくどれだけ時間が経ったかわかるような構成になっていると思います。ジョン・レノンは昔「あれこれ準備しているうちに過ぎていくのが人生だ」と言っていましたが、まさにそういうことです。実はこの映画の音楽(レイチェル・ポートマンのスコア)はアビーロード・スタジオで録音していて、劇中の音楽のピアノはビートルズが<レディ・マドンナ>を録音した時に使ったものでした。あまりにも楽しくて仕事だとは思えない、そういう瞬間でした」
(初出:「CDジャーナル」2012年7月号)