『You Are Not Alone I & II (Sohrab remix album)』 by Various Artists
大都市テヘランに生きるミュージシャンの孤独と絶望
昨年公開されたクルド系イラン人の監督バフマン・ゴバディの『ペルシャ猫を誰も知らない』(09)には、テヘランのアンダーグラウンドで活動する様々なミュージシャンたちが登場する。インディ・ロック、フュージョン、ブルース、ヘヴィメタ、ラップなどなど。ただしこの映画、ドキュメンタリーではない。ゴバディはアンダーグラウンドのミュージシャンとの出会いをきっかけに、ドキュメンタリー、フィクション、ミュージックヴィデオ、即興などが融合したユニークな作品を作り上げた(※無許可のゲリラ撮影であったため、ゴバディは祖国を離れることになった)。
●バフマン・ゴバディ・インタビュー『ペルシャ猫を誰も知らない』
テヘラン出身のミュージシャンSohrabはこの映画には登場しないが、彼のアルバム『A Hidden Place』にはもうひとつのイランを見出せる。彼が切り拓くエレクトロニック・アンビエントの世界は、アメリカで活動するイラン人批評家ハミッド・ダバシが主張するような多文化的、混合主義的、異種交配的な性格を備えているように思える。
Sohrabは1984年、テヘランに生まれ。兄弟や友だちとパンク・バンドを結成したが、自由な表現や活動が許されず、2年で解散した。そして、孤立した状況のなかで、エレクトロニック・アンビエントの世界を切り拓いた。
Sohrab “A Hidden Place” from Touch on Vimeo.
『A Hidden Place』は、鶏の鳴き声や人の叫び声、水音などのフィールド・レコーディングと、ヒプノティック、ノイジー、パーカッシヴと様々に変化するサウンドの融合が、こちらの想像力を刺激する。
筆者は、『ペルシャ猫を誰も知らない』で垣間見ることのできた複雑な状況や微妙な空気を想起した。たとえば、ヘヴィメタのバンドが牛小屋で練習する光景はユーモラスに見えるかもしれない。しかし、そこで働く労働者との間には感情的な溝があるような印象を受ける。
イランでは、中流層と貧困層の間に深い溝があり、中流層に反発する貧困層が保守強硬派のアフマディネジャドを支持し、大統領選に影響を及ぼすことになった。『A Hidden Place』の音楽も、体制を糾弾するような姿勢を感じるのではなく、溝やねじれが生み出す空気、複雑な心理を感じる。
Sohrabは、昨年の秋にベルリンのクラブに登場したあと、ドイツで政治的保護[亡命]を求めたが、受け入れられなかったため、現行の制度に抗議するため基金を募っている。最悪の場合には、イランに送還され、テヘラン空港で逮捕される可能性もある。
↓この2枚は、彼をサポートするために結束したミュージシャンたちが作ったリミックス・アルバム。その顔ぶれは以下のとおり。収益は彼の基金に寄付される。筆者は、Jana Winderenが参加している『II』が気に入っている。
JG Thirlwell – Susanna (Uxorial mix) 4:48 | Achim Mohné – Milan Knizhak mix#1 (side a) 6:05 | Jóhann Jóhannsson – Zarrin (remix) 6:01 (Mixed by Jóhann Jóhannsson at NTOV, Copenhagen, 24th May 2011) | Anonymous – Triple Exposure 9:10 (Mastered by a different Anonymous 24th May 2011) | Leif Elggren – No One Really Knows (destroyed) 11:46
Daniel Menche – Zarinn (menche mix) 11:45 | Jana Winderen – Susanna 7:00 | Philip Jeck – Susanna (remix) 5:23 | Philip Marshall – Somebody, Hidden 7:45 (Mastered by BJNilsen, Berlin, 20th May 2011) | Michael Esposito – Somebody’s Ghost 6:47
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No One Knows About Persian Cats (Original Motion Picture Soundtrack) – Various Artists
A Hidden Place – Sohrab
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