『The Rip Tide』 by Beirut and 『Bombay Beach』 by Alma Har’el

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訪れたことのない場所から過去や記憶のなかの場所へ

BeirutのフロントマンであるZack Condonが生み出す音楽と場所との関係は非常に興味深い。彼はニューメキシコのサンタフェで育ったが、これまでBeirutの音楽と彼のバックグラウンドに直接的な結びつきはほとんど見出せなかった。

Condonはバルカン・ブラスにインスパイアされて、Beirutのデビューアルバム『Gulag Orkestar』(2006)を作った。しかし、彼自身がバルカンを訪れ、音楽に接したわけではない。

『Gulag Orkestar』 (2006)

きっかけは、カレッジをやめてヨーロッパに行き、アムステルダムのアパートで従兄弟と暮らしていたときに、上階に住むセルビア人のアーティストがバルカン・ブラスのアルバムをがんがんかけていたことだった。

しかしCondonは、単にバルカン・ブラスに影響されてアルバムを作ったというわけではない。彼はよくインタビューで、自分が訪れたり、住んだりしたことのない「場所」により影響されることがあると語っているし、そういう指摘もされている。

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『The Whole Tree Gone』 by Myra Melford’s Be Bread

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戦争と自然、繊細なアンサンブルに込められた意味を探る

ジャズ・ピアニスト/コンポーザーのマイラ・メルフォード(Myra Melford)が昨年リリースしたBe Bread名義の2枚目『The Whole Tree Gone』(2010)は、とても気に入っていて、いまもときどき聴いている。

このアルバム・タイトルについては、環境問題やエコロジーを意識しているのではないかと考える人もいるだろう。ずいぶん昔の話になるが、彼女が大学で選考していたのは環境科学だった。だからそういうことに関心を持っていても不思議ではない。しかし、このタイトルにはもっと深い意味が込められているように思う。

『The Whole Tree Gone』 (2010)

同じBe Bread名義でも、前作の『The Image of Your Body』(2006)とこのアルバムでは、そのスタイルやサウンドに大きな違いがある。

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『Collage d’intentions part one & two』 『White Midsummer Forest』 by eeem

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鳥の声に導かれてフィンランドの音の森を散策する

筆者が住んでいるビルの隣にたっている古い建物、その壁面にあいた穴に名前も知らない鳥が巣をつくり、毎日、朝から賑やかな鳴き声が聞こえる。

そのせいかどうかわからないが、最近は、自然の音のなかでも特に鳥の声に敏感になっているような気がする。

時間があるときには、世界各地の鳥の声をレクチャーしてくれるaudiobookを聴いたりもする。↓たとえばこれは、イギリスの森林地帯に住む鳥たちのガイド。他にもいろいろあるので、いずれ取り上げるかもしれない。

『A Guide to British Woodland Birds』

フィンランドのヘルシンキを拠点に活動するEeemの音楽は、ジャンルでいえばエレクトロニック・アンビエントということになるかと思うが、鳥の声を使ったサウンドスケープが印象に残る。

『Collage d'intentions part one』

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『Canto Negro』 by Henri Texier Nord-Sud Quintet

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南と北を結ぶクインテットはブラック・アトランティックを目指す

フランスを代表するのジャズ・ベーシストHenri Texierは、1945年パリ生まれなので、もう伝説といえるキャリアに満足してしまっても、あるいは精神的、肉体的に衰えてきてもおかしくないが、いまもこういうしっかりとしたヴィジョンを持ったアルバムを作っている。すごいことだと思う。

『Canto Negro』 (2011)

筆者が最初に連想したのが、Melvin Gibbs Elevated Entityの『Ancients Speak』(09)。TexierとGibbsでは、世代も環境も違うのでサウンドには大きな違いがあるが、ヴィジョンは同じだと思う。

『Ancients Speak』 (2009)

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『You Are Not Alone I & II (Sohrab remix album)』 by Various Artists

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大都市テヘランに生きるミュージシャンの孤独と絶望

昨年公開されたクルド系イラン人の監督バフマン・ゴバディの『ペルシャ猫を誰も知らない』(09)には、テヘランのアンダーグラウンドで活動する様々なミュージシャンたちが登場する。インディ・ロック、フュージョン、ブルース、ヘヴィメタ、ラップなどなど。ただしこの映画、ドキュメンタリーではない。ゴバディはアンダーグラウンドのミュージシャンとの出会いをきっかけに、ドキュメンタリー、フィクション、ミュージックヴィデオ、即興などが融合したユニークな作品を作り上げた(※無許可のゲリラ撮影であったため、ゴバディは祖国を離れることになった)。

バフマン・ゴバディ・インタビュー『ペルシャ猫を誰も知らない』

テヘラン出身のミュージシャンSohrabはこの映画には登場しないが、彼のアルバム『A Hidden Place』にはもうひとつのイランを見出せる。彼が切り拓くエレクトロニック・アンビエントの世界は、アメリカで活動するイラン人批評家ハミッド・ダバシが主張するような多文化的、混合主義的、異種交配的な性格を備えているように思える。

『A Hidden Place』 (2010)

Sohrabは1984年、テヘランに生まれ。兄弟や友だちとパンク・バンドを結成したが、自由な表現や活動が許されず、2年で解散した。そして、孤立した状況のなかで、エレクトロニック・アンビエントの世界を切り拓いた。

Sohrab “A Hidden Place” from Touch on Vimeo.

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