クリント・イーストウッド 『J・エドガー』 レビュー

Review

死者の声としての回顧録、権力者が無力な一個人に戻る瞬間

初代FBI長官J・エドガー・フーヴァー(1895-1972)を題材にしたクリント・イーストウッド監督の『J・エドガー』の世界に入り込むためには、いくらか予習が必要かもしれない。フーヴァーはFBIを強力な組織に育てあげ、48年に渡って長官の座に君臨し、8人もの大統領に仕えた。

そんな彼は国民的英雄と讃えられる一方で、膨大な個人情報を密かに収集し、それを武器に権力を振るった。生前から同性愛者という噂が流れていたが、それが事実だとすれば、敵対する政治家にダメージを与えるために同性愛者という情報を流すような卑劣な手段を使っていた彼は、自分にも怯えていたことになる。

この映画では、20代から77歳に至るフーヴァーの人生の断片が、時間軸を自在に操りながら描き出されていく。筆者はフーヴァーの実像に迫るアンソニー・サマーズの『大統領たちが恐れた男――FBI長官フーヴァーの秘密の生涯』を読んだことがあったので、さほど気にならなかったが、予備知識がないとそんな複雑な構成に振り回され、テーマがぼやけてしまいかねない。

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『ミッドナイト・イン・パリ』 『ジョイフル♪ノイズ』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ミッドナイト・イン・パリ』 ウディ・アレン

アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞で脚本賞を受賞したアレンの新作。21世紀のアレンは定まった枠組みのなかで映画を作って、もはや逸脱することはないのかと思っていたが、そんなことはなかった。

プレスでは“タイムスリップ”という表現が使われているが、主人公が迷い込む世界が、本当の1920年代とは限らない。深夜0時を回った瞬間から始まる夢、あるいは妄想のようにも見え、曖昧にされているところがいかにもアレンらしい。

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『アーティスト』 劇場用パンフレット

News

サイレント映画から新たな魅力を引き出す現代的なアプローチ

第84回米アカデミー賞で、作品賞、監督賞(ミシェル・アザナヴィシウス)、主演男優賞(ジャン・デュジャルダン)など5冠に輝いたサイレント映画『アーティスト』。4月7日より全国ロードショー公開になるこの作品の劇場用パンフレットに上記のタイトルで作品評を書いております。

実際に作品を観るまでは、サイレント映画がなぜこれほど話題になるのか正直、不思議に思っていましたが、かつてのサイレント映画を現代に甦らせただけの作品ではないし、ハリウッドへのオマージュや、男優と女優のロマンス、芸達者な犬以外にも魅力を持った作品です。

冒頭の新作上映会では、俳優たちが上映後の舞台挨拶のためにスクリーンの裏で待機しているのですが、そこでわざわざ「舞台裏につき私語禁止」という標語を映してみせたときに、これは音や音楽を意識させる巧みな話術が見られそうだと思ったら、本当にそういうことになっていました。

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