トマス・ヴィンターベア 『偽りなき者』 レビュー

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コミュニティが不可視の集団へと変わるとき

トマス・ヴィンターベア監督の新作『偽りなき者』の出発点は、〝ドグマ95〟の第一弾として世界的な注目を集めた彼の『セレブレーション』(98)まで遡る。

映画が公開された後で、この監督と同じ通りに住む著名な精神科医が、映画の内容に関心を持ち、直接訪ねてきた。そして、研究事例の資料を差し出し、それを映画にすべきだと提案した。ヴィンターベアは資料を受け取ったものの、すぐに目を通すことはなかった。

『セレブレーション』では、自殺した双子の妹とともに幼い頃に父親から性的虐待を受けていた主人公が、父親の還暦を祝う席で苦痛に満ちた過去を暴露する。精神科医が注目するのもよくわかる題材ではあるが、コミューンで育ったヴィンターベアが最も関心を持っていたのは、おそらく集団の心理だった。だから資料を放置したのだろう。

しかしそれから10年後、離婚も経験したヴィンターベアは精神科医が必要になり、彼に連絡をとった。もちろん礼儀として資料にも目を通した。そして衝撃を受けた。

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アントニオ・チャバリアス 『フリア よみがえり少女』 レビュー



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喪失感が罪悪感につながり、喪失感が罪悪感をよみがえらせる

38歳のダニエルと34歳のラウラの夫婦は、ともに同じ小学校に勤める教師で、子宝に恵まれないことに悩んでいる。そんなある日、マリオという男が学校にダニエルを訪ねてくる。彼はダニエルが子供の頃に親しかった友人だが、その後は疎遠になっていた。なにかに怯えるマリオは自分の娘のフリアに会ってほしいと懇願するが、意味がわからないダニエルは病院に行くことを勧め、突き放してしまう。

それから間もなく夫婦は、マリオが自殺したことを知る。マリオの葬儀に参列した彼らは、故人の娘フリアが養護施設に入れられていることを知り、一時的に預かることにする。だが、以前からダニエルを知っているかのようなフリアの発言や態度が、彼にある少女のことを思い出させ、精神的に追い詰めていく。

ダニエルが封印した忌まわしい過去は、そんなドラマと並行してフラッシュバックによって徐々に明らかにされていく。その夏、ダニエル少年は、父親が再婚を考えていたルイサと彼女のふたりの子供マリオとクララと一緒に過ごすことになる。だが数日後、ダニエルやマリオと一緒だったはずのクララが、墓地で遺体となって発見され、再婚は白紙となった。

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『ハッシュパピー バスタブ島の少女』 映画.com レビュー+サントラの話

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海上他界信仰を通して描き出される荒々しく深いイニシエーション

「映画.com」の本日(4月9日)更新の映画評枠で、上記のようなタイトルで、4月20日公開のベン・ザイトリン監督『ハッシュパピー バスタブ島の少女』(12)のレビューを書いています。その告知のついでに、レビューのテキストを補完するようなことを書いておきます。

特に音楽についてです。監督のベン・ザイトリンは、ミュージシャン/プロデューサーのダン・ローマーとともに音楽も手がけています。彼の映画では、音楽が重要な位置を占めています。というのも、彼は高校や大学時代には、バンドで活動したりミュージカルを創作するというように、まずなによりも音楽に関心を持っていました。ちなみに演奏する楽器は主にギターで、ピアノもこなすようです。

そんなザイトリンにとっては映像と音楽は対等なものであって、どちらも共通のイマジネーションから生み出され、深く結びついています。筆者は『ハッシュパピー バスタブ島の少女』試写室日記で、この映画の音楽について、「マイケル・ナイマンとバラネスク・カルテットがレクイエムを奏でているようなテイストもある」と書きました。

以下のYouTubeは、ザイトリンとローマーも参加したサントラの1曲<Once There Was a Hushpuppy>の演奏風景を収めたものです。筆者はすぐにナイマンを連想しますが、それは間違いではなかったようです。

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ロバート・ゼメキス 『フライト』 レビュー01



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巡り合せが啓示に見えるゼメキスの奥深さ

ロバート・ゼメキスが久しぶりに実写に挑んだ『フライト』は、冒頭から私たちを一気に映画の世界に引き込む。

前の晩に客室乗務員と盛り上がった機長ウィトカーは、コカインで景気をつけてフライトに臨み、機内でも人目を盗んで酒を飲んでいる。驚きはそれだけではない。

なんらかの故障で機体が制御不能に陥ると、背面飛行という離れ業で危機を切り抜け、奇跡ともいえる緊急着陸を成し遂げる。だが、彼の血液中からアルコールが検出され、公聴会が開かれることになる。

ゼメキスが切り拓く世界では、“巡り合せ”が重要な位置を占めている。彼の作品の主人公は、個人の意志や能力だけで壁を乗り越えたり、なにかを達成するわけではない。

『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)の主人公は、母親の教えを愚直に守っているに過ぎないが、巡り合せが彼を聖人にし、望むべくもなかった家族をもたらす。『キャスト・アウェイ』(00)で無人島に囚われた主人公を変えるのは、島に流れ着いた簡易トイレの残骸であり、「潮がなにかを運んでくる」が彼の人生訓になる。

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『グランド・マスター』 試写

試写室日記

本日は試写を1本(本当はもう少し前に内覧試写で観ていたが、いちおう完成披露試写会の日にあわせておくことにする)。

『グランド・マスター』 ウォン・カーウァイ

プレスによれば、すべての始まりは、ウォン・カーウァイ監督が『ブエノスアイレス』(97)撮影中のアルゼンチンで、ブルース・リーが表紙の雑誌を見たことだという。遠い外国で愛され続けている彼の映画を撮りたいと思った。

その後、ウォン監督の関心はブルース・リーから彼の師として知られる伝説の武術家・イップ・マン(葉問)へと移行し、綿密なリサーチを経て、中国武術を受け継ぎ、次代に継承していった宗師<グランド・マスター>たちの運命を描く物語になった。

独特の美学に貫かれたアクションは実に見応えがあるが、やはりアクション映画ではない。「愛と宿命の物語」というのも少し違うと思う。個人的にはこれは、登場人物も設定もまったく違うが、『欲望の翼』(90)『花様年華』(00)『2046』(04)という60年代三部作の前史と位置づけたくなる作品だ。

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