テレンス・マリック 『トゥ・ザ・ワンダー』 レビュー

Review

彼女を目覚めさせ、解放するもの

テレンス・マリック監督の『トゥ・ザ・ワンダー』には、愛し合う男女や苦悩する神父の姿が描き出されるが、そんな登場人物を追いかけ、物語を見出すだけでは、おそらく深い感動は得られないだろう。マリックが描いているのは、人間ドラマというよりは、人間を含めた世界の姿だといえる。

しかもその世界は誰の目にも同じように見えるわけではない。この映画には、見えない糸が張り巡らされ、それをどうたぐるかによって感知される世界が変わってくるように思えるからだ。

ではなぜマリックはそんな表現を切り拓くのか。おそらく人間中心主義や比較的新しい哲学である環境倫理学と無関係ではないだろう。環境倫理学の創始者のひとりJ・ベアード・キャリコットはその著書『地球の洞察』の日本語版序文で、このようなことを書いている。

西洋哲学は長年にわたって人間中心主義の立場をとり、「自然は『人間』のための支援体制や共同資源、あるいは人間のドラマが展開する舞台に過ぎなかった」。これに対して環境倫理学者たちは、「人間の位置を自然の中に据えて、道徳的な配慮を人間社会の範囲を越えてひろく生物共同体まで拡大しようとした」。

続きを読む