アヌラーグ・バス 『バルフィ!人生に唄えば』 レビュー

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世界を引っ掻きまわすトリックスターが炙り出すもの、巧妙な時間軸の操作が生み出すマジック

インド映画を牽引するアヌラーグ・バス監督の『バルフィ! 人生に唄えば』の主人公は、生まれつき耳が聞こえず、話もできないが、豊かな感情を眼差しや身ぶりで表現してしまう心優しい青年バルフィだ。物語は彼と二人の女性、富も地位もある男性と結婚したシュルティと、施設に預けられている自閉症のジルミルを軸に展開していく。

バルフィはシュルティに一目惚れし、彼女が結婚してしまっても想いつづける。しかしその一方で、父親の手術費を捻出すべく奔走するうちに、祖父の遺産を相続したジルミルの誘拐事件に巻き込まれ、彼女との間に絆を培っていく。

この映画には、世界各国の映画からの引用が散りばめられているが、あまり細部に気をとられると、作品のダイナミズムが半減しかねない。

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ドゥニ・ヴィルヌーヴ 『プリズナーズ』 レビュー

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過去や罪に囚われた者たちの運命を分ける、偶然と信仰心

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『プリズナーズ』は、ペンシルヴェニア州で工務店を営むケラーとその息子が鹿を狩る場面から始まる。親子が狩猟を終え、獲物を車の荷台に載せて自宅に向かっているとき、ケラーは父親から教えられたことを息子に伝える。それは「常に備えよ」という言葉に集約される。実際、自宅の地下室には、食料から防毒マスクまでサバイバルに必要なあらゆるものが備えられている。私たちは、ケラーの父親というのは、非常に用心深く、何事にも動じない人物だったのだろうと思う。

ところが、ドラマのなかでそんな印象が変わる。ケラーの行動に不審を抱いた刑事のロキは、古い新聞記事から、州刑務所の看守を務めていた彼の父親が自宅で自殺したことを知る。その事情は定かではないが、当時ティーンエイジャーだったケラーが立ち直れないほどのショックを受けたことは間違いない。

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スティーヴ・マックィーン 『それでも夜は明ける』 レビュー

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檻に囚われた人間

イギリス出身の鬼才スティーヴ・マックィーンの映画を観ることは、主人公の目線に立って世界を体験することだといえる。

たとえば、前作『SHAME-シェイム-』では、私たちは冒頭からセックス依存症の主人公ブランドンの日常に引き込まれる。彼は仕事以外の時間をすべてセックスに注ぎ込む。自宅にデリヘル嬢を呼び、アダルトサイトを漁り、バーで出会った女と真夜中の空き地で交わり、地下鉄の車内で思わせぶりな仕草を見せる女をホームまで追いかける。だが、彼の自宅に妹が転がり込んできたことで、セックス中心に回ってきた世界はバランスを失っていく。この映画では、なぜ彼が依存症になったのかは明らかにされない。

新作『それでも夜は明ける』では、そんなマックィーンのアプローチがさらに際立つ。映画のもとになっているのは1853年に出版されたソロモン・ノーサップの回顧録だが、その原作と対比してみると映画の独自の視点が明確になるだろう。

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