クリスティアン・ムンジウ 『汚れなき祈り』 レビュー



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現代ルーマニア社会を炙り出すムンジウの視線

クリスティアン・ムンジウ監督の新作『汚れなき祈り』は、実際に起きた事件に基づいているが、その忠実でリアルな再現ではない。私たちがこの映画に深く引き込まれるのは、ムンジウ監督の独自の視点と表現が、単なるリアリズムとは一線を画す世界を切り拓いているからだ。

それがどんな視点と表現であるのかは、カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた前作『4ヶ月、3週と2日』と対比してみることでより明確になるだろう。なぜなら、二作品は時代背景が異なるにもかかわらず、興味深い接点があるからだ。

『4ヶ月、3週と2日』では、1987年というチャウシェスク独裁の時代を背景に、寮のルームメイト、ガビツァの違法な中絶手術を成功させるために奔走する大学生オティリアの一日が描き出される。この映画で最も印象に残るのは、ホテルの一室でオティリアとガビツァ、そして闇医者が向き合う場面だろう。

ムンジウ監督は、鋭い洞察によって三者の微妙な力関係を浮き彫りにしていく。まずガビツァが、友人の不確かな情報を真に受け、妊娠の時期や手術料などについて、嘘をついていたり、憶測で判断していたことが明らかになる。一方、闇医者は相手の弱みにつけ込み、権力を振りかざし、ガビツァだけではなくオティリアにまで理不尽な要求を突きつける。そして、閉ざされた空間で巻き添えとなったオティリアは、大きな犠牲を払うことになる。そんな緊迫した状況を、ワンシーン・ワンカットの長回しで見事に切り取っているのだ。

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ファティ・アキン 『トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~』 レビュー



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世界の現状、その縮図としての小さな村のゴミ騒動

30代にしてカンヌ、ベルリン、ヴェネチアの三大映画祭での受賞を成し遂げたトルコ系ドイツ人のファティ・アキン監督の新作は、劇映画ではなくドキュメンタリーだ。

彼はこれまでにもトルコ音楽に迫る『クロッシング・ザ・ブリッジ』を作っているが、今回はゴミ問題というより社会的な題材を取り上げている。

その舞台は、アキンの祖父母の故郷であるトルコ北東部トラブゾン地域の村チャンブルヌ。映画は、自然に恵まれた村に暮らす住人たちの生活が、銅鉱山の跡地に建設されたゴミ処理場によって破壊されていく過程を生々しく映し出していく。

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ユン・ジョンビン 『悪いやつら』 レビュー

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“ハンパ者”のサバイバルを通して炙り出される韓国軍事主義

韓国の新鋭ユン・ジョンビン監督の『悪いやつら』は、1982年の釜山から始まる。

賄賂で退職の危機に陥った税関職員のチェ・イクヒョンは、押収した覚醒剤の横流しを企てたことから暴力組織の若きボス、チェ・ヒョンベに出会う。そのヒョンベは偶然にも遠い親戚だった。彼の信頼を得たイクヒョンは、公務員時代のコネや血縁を駆使して裏社会でのし上がっていく。

だが、チョン・ドゥファンの後を継いだノ・テウ大統領が1990年に組織犯罪の一掃を目指す“犯罪との戦争”を宣言すると、二人の間に亀裂が生じるようになる。

そんなドラマでは、男たちの壮絶な生き様や暴力描写が際立つが、ユン監督の関心は背景となる社会に向けられている。

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リー・ダニエルズ 『ペーパーボーイ 真夏の引力』 レビュー

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ミステリーの背後でせめぎ合う人種、階層、セクシャリティ

『プレシャス』で注目されたリー・ダニエルズ監督の新作『ペーパーボーイ 真夏の引力』は、まだ人種差別が根深く残る60年代末の南部フロリダを舞台にした異色のノワールだ。

田舎町における青年ジャックの鬱屈した日々は、マイアミの新聞社に勤める兄ウォードの帰省でがらりと変わる。彼の目的はヒラリーという死刑囚の冤罪疑惑の調査だったが、それを手伝うことになったジャックは、調査の依頼主である死刑囚の婚約者シャーロットに心を奪われ、悪夢のような世界に引き込まれていく。

人種差別主義者の保安官がめった刺しにされた事件で、冤罪疑惑が浮上するとなれば、時代や舞台から死刑囚は黒人だと思いたくなる。ところが、そんな予想が裏切られるばかりか、白人と黒人をめぐる単純な図式が次々と覆されていく。

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ミゲル・ゴメス 『熱波』 レビュー



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幽霊の噂とは何か、ポルトガルの新鋭による“消え去ったものの痕跡”についての考察

ポルトガル映画界の新鋭ミゲル・ゴメス監督の『熱波』は、緻密に構築されたモノクロの映像世界が実に不思議な印象を残す作品だ。

その物語は、現代ポルトガルの都市を舞台にした「楽園の喪失」と植民地時代のアフリカを舞台にした「楽園」の二部で構成されている。

第一部に登場するのは、80代の孤独な老女アウロラと彼女の世話をするメイドのサンタ、そして彼らの隣人で、定年後に奉仕活動に精を出すカトリック信者の女性ピラール。病に倒れ、死期が近いことを悟ったアウロラは、ベントゥーラという男を探すように二人に頼む。見つかったベントゥーラは、アウロラの死に目には間に合わないが、二人に50年前の出来事を語り出す。

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