リュック・ベッソン 『The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛』 レビュー

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リュック・ベッソンとミシェル・ヨーが魅せる、
新たなキャリアの一歩

リュック・ベッソン監督の新作『The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛』では、祖国と家族のはざまで過酷な現実と向き合い、困難を乗り越えてきたアウンサンスーチーの半生が描き出される。

それは、ベッソンのフィルモグラフィを踏まえるなら意外な題材といえる。彼はこれまで、たとえ荒唐無稽に見えようとも、現実に縛られることなく自己の感性に忠実に、独自の世界やキャラクターを創造してきた。そんなベッソンが、事実に基づく物語に挑戦するとなれば、これは注目しないわけにはいかないだろう。

その結果は、予想以上に素晴しく、見応えのある作品になっていた。この映画では、現実から逸脱するような表現は影を潜めているが、だからといって現実に妥協しているわけではなく、しっかりと踏み込んでいる。そして、ミシェル・ヨーから渡された脚本を読んだベッソンが、どんなところに心を動かされ、監督に名乗りを上げたのかがわかる気がしてきた。

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パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ 『塀の中のジュリアス・シーザー』 レビュー

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再構築されるホモソーシャルな関係が生み出すカタルシス

イタリアのローマ郊外にあるレビッビア刑務所では、囚人たちによる演劇実習が定期的に行われている。毎年様々な演目を囚人たちが演じ、所内にある劇場でその成果を一般の観客に披露するのだ。囚人たちを指導している演出家ファビオ・カヴァッリは、今年の演目がシェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」であることを告げ、オーディションが行われ、稽古がはじまる…。

タヴィアーニ兄弟の新作『塀の中のジュリアス・シーザー』では、本物の刑務所で実際の囚人たちがシェイクスピア劇を演じる。しかし、これはドキュメンタリーではない。兄弟が演目として「ジュリアス・シーザー」を提案し、脚本を書いている。

実際に作品を観ると、そこに様々な計算が働いていることがわかるだろう。所内にある劇場が改修中であるため、オーディションで選ばれた囚人たちは、舞台ではなく所内の様々な場所で稽古をする。タヴィアーニ兄弟は、監房や廊下、遊技場などで台詞を繰り返す囚人たちを巧みなカメラワークでとらえていく。

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『命をつなぐバイオリン』 『世界にひとつのプレイブック』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『命をつなぐバイオリン』 マルクス・O・ローゼンミュラー

ジョン・ボインの児童文学作品を映画化したマーク・ハーマン監督の『縞模様のパジャマの少年』では、大人の世界とふたりの子供たちの視点のズレを通して、ナチズムが描き出された。フェンスを挟んで向き合うふたりの少年は、強制収容所が何なのかを知らないままに、友情を育んでいく。

ナチスが台頭する時代を背景に、ユダヤ人の少年と少女、ドイツ人の少女の友情を描く本作にもそれに通じる視点がある。導入部で明らかなように、神童といわれるユダヤ人の少年と少女は、優遇はされているものの、ナチスの侵攻以前にすでに共産党のプロパガンダに利用され、才能を搾取されている。

ナチスの支配下で3人が友情を育むことは、音楽を自分たちの手に取り戻そうとすることでもあるが、終盤に難点がある。それはあらためてレビューで書くことにしたい。

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『ザ・マスター』 『野蛮なやつら/SAVAGES』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ザ・マスター』 ポール・トーマス・アンダーソン

アンダーソンのオブセッションと深く結びついた強烈なオリジナリティに圧倒される。IBDbで偶然見かけたある観客の感想がこの映画の魅力を物語っている。細かいことは忘れてしまったが、その人は、よくわからないが、すごい映画だと思うという趣旨のことを書いていた。

一般的にアメリカではやはりまずわかりやすさが求められる。だからこの映画のように、明確なストーリーではなく、複雑な内面を持つ二人の主人公のキャラクターがそのまま映画の世界になっているような作品というのは、わからないですまされかねない。ところが、わからなくてもすごいと思われるということは、尋常ではない説得力を持っているということになる。

この映画には、個人的に興味をそそられる要素がいろいろ盛り込まれている。たとえば、これは偶然だが、筆者は、『倒壊する巨塔:アルカイダと「9.11」への道』を書いたジャーナリスト、ローレンス・ライトの新作『Going Clear:Scientology,Hollywood, and the Prison of Belief』を読み出したところだった(いや、Audiobookでゲットしたので聴き出したところだったというべきか)。

本書はサイエントロジーの実態に迫るノンフィクションで、タイトルにあるように、ハリウッドとの繋がりも掘り下げられている。話は少しそれるが、導入部は若き日のポール・ハギスが勧誘されるところからはじまる。以前、ハギスの『スリーデイズ』の原稿を書いたときに、カナダ・オンタリオ州生まれのハギスが20代でハリウッドに出てきた経緯がなんとなく気になっていたのだが、その頃からすでにサイエントロジーと関わりがあったことがわかる。

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『ジャンゴ 繋がれざる者』 試写

試写室日記

本日は試写を1本。

『ジャンゴ 繋がれざる者』 クエンティン・タランティーノ

新年早々だったと思うが、「Village Voice」に「クエンティン・タランティーノを守る方法」という記事があった。その中身はこんな感じだ。タランティーノは新作を作るたびに、悪くいえば“剽窃者”、よくいえば“中身のないポストモダニスト”、要するにパクリばかりで、本質がないと批判される。だから彼を弁護しなければならない。

ということで、まず『荒野の用心棒』に注目する。この映画は黒澤の『用心棒』のパクリだったのに、カメラワークや音楽やイーストウッドのパフォーマンスが評価されている。タランティーノの場合は単なるパクリではなく、ストーリーもキャラクターも彼にしか生み出せないもので…というように展開していく。

その論点はわからないではないが、出発点の部分で中身のないポストモダニストという形容を単に否定的なものとしてとらえてしまうところに根本的な問題がありそうだ。この世には間違いなく中身のないポストモダンの世界があって、タランティーノは喜んでそれを受け入れ、独自の感性を培った。

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