ケン・ローチ 『ルート・アイリッシュ』 レビュー

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戦争の民営化、冷酷なシステムによって崩壊していく地域社会

ケン・ローチの新作『ルート・アイリッシュ』(10)は、2007年、リヴァプールの教会における葬儀の場面から始まる。主人公のファーガスとフランキーは幼なじみの親友で、ともに兵士としてイラク戦争に参加した。だが、ファーガスが先に帰国し、残ったフランキーは無言の帰宅を果たすことになった。

フランキーが亡くなった場所は、バグダード空港とグリーン・ゾーン(米軍管理区域)を結ぶルート・アイリッシュ、イラクで最も危険な区域だった。関係者は、まずいときにまずい場所にいたという説明を繰り返すが、ファーガスは納得することができない。

それは激しいショックで自制心を失っているからだけではない。フランキーが亡くなった日、ファーガスの電話には「大事な話がある」という親友からの切迫したメッセージが残されていた。さらに、フランキーが残した携帯電話によって疑惑は決定的となる。そこには、フランキーが行動をともにしていた兵士ネルソンによって罪もない民間人が殺害される瞬間が記録されていた。

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『ル・アーヴルの靴みがき』 『レンタネコ』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ル・アーヴルの靴みがき』 アキ・カウリスマキ

アキ・カウリスマキにとって長編映画としては5年ぶりの新作であり、『ラヴィ・ド・ボエーム』(91)以来、2本目のフランス語映画となる。その『ラヴィ・ド・ボエーム』は観ておいたほうがよいと思う。マルセル・マルクスが再登場するだけではなく、物語がそこから再構築されているところがあり、現在のカウリスマキの境地を理解する手がかりになるからだ。

映画を観ながら、昔カウリスマキにインタビューしたとき、空間の造形についてこのように語っていたのを思い出した。

「時代についてはいつもタイムレスな設定をしようという気持ちがあります。たとえば普通は、70年代と50年代の家具を組み合わせるようなことはしないと思いますが、わたしは同じ画面のなかにいつも異なる時代を混在させています。 そして最終的には50年代へと戻っていく傾向があります。わたしは実際にその時代を体験したわけではありませんが、とても好きな時代なのです。誰もが経済的には貧しかったが、とてもイノセントで、もっとお互いに助け合い、幸福な時代でした」

そういうセンスにさらに磨きがかかっている。カウリスマキが、『浮き雲』(96)、『過去のない男』(02)、『街のあかり』(06)という三部作を完成させたあと、どういう方向に向かうのか大いに注目していたが、これまで暗示的に表現されていたものが具体化され、新たな次元へと踏み出していて、素晴しい。

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ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 『少年と自転車』 レビュー

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必死にしがみつく少年、誘惑の森、そして媒介としての自転車

カンヌ国際映画祭グランプリを受賞したダルデンヌ兄弟の新作『少年と自転車』(11)では、児童養護施設で暮らす少年シリルと美容院を経営するサマンサとの交流が描かれる。

間もなく12歳になるシリルは、彼を施設に預けた父親とまたいっしょに暮らすことを夢見ていたが、団地に戻ってみると父親はなにも告げずに転居していた。そのときサマンサと出会い、親切にされた彼は、週末を彼女の家で過ごすようになる。

シリルはその週末を使って父親を探し当てるが、戸惑う父親から突き放されてしまう。それを目の当たりにしたサマンサは、真剣にシリルの面倒をみるようになる。だが、かつて同じ施設にいた不良少年ウェスが、彼を巧みに丸め込み、利用しようとする。

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今週末公開オススメ映画リスト2012/03/22

週刊オススメ映画リスト

今回は『マリリン 7日間の恋』と『テイク・シェルター』の2本です。

『マリリン 7日間の恋』 サイモン・カーティス

『マリリン 7日間の恋』の物語は、後にドキュメンタリーの監督として名を残すコリン・クラークが書いた二冊の回顧録がもとになっている。筆者はどちらも読んでいないが、プレスによれば、一作目の『The prince, the Showgirl, and Me』では、『王子と踊り子』の第3助監督を務めたクラークの目に映ったモンローとローレンス・オリヴィエという二人の世界の軋轢が主に描き出され(40年前の出来事だが、クラークは撮影中、毎晩日記をつけていた)、二作目の『My Week with Marilyn』では、クラーク自身がマリリンとイギリス郊外を旅した一週間の出来事が記されているという。

この映画の成功の要因には、二冊の回顧録を巧みに組み合わせた脚本を挙げてもよいだろう。その結果として、映画の撮影現場が険悪な空気に包まれ、修羅場と化していくのに対して、その外でまるで映画のようなロマンスが芽生えていくという皮肉でめりはりのある物語が生まれた。

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ジェフ・ニコルズ 『テイク・シェルター』 レビュー

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“不安の時代”を象徴的かつリアルに浮き彫りにした出色の心理スリラー

リーマン・ショックから異常気象による災害まで、いまの世の中には日常がいつ崩壊するかわからないような不安が渦巻いている。アメリカの新鋭ジェフ・ニコルズ監督の『テイク・シェルター』では、鋭い洞察と緻密な構成によってそんな平穏に見える日常に潜む不安が掘り下げられていく。

掘削会社の土木技師であるカーティスは、妻のサマンサと聴覚に障害のある娘ハンナと、温かい家庭を築いていた。ところが、あるときから幻覚や幻聴、悪夢に悩まされるようになる。

迫りくる巨大な竜巻、茶色っぽくて粘り気のある雨、空を覆う黒い鳥の大群、突然牙をむく愛犬、凶暴化する住人など、あまりにもリアルなヴィジョンが彼の現実を確実に侵食していく。やがて彼は、避難用シェルターを作ることに没頭しだす。

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