『私が、生きる肌』 『捜査官X』 『ミッドナイトFM』 試写

試写室日記

本日は試写を3本。

『私が、生きる肌』 ペドロ・アルモドバル

『抱擁のかけら』(09)につづくアルモドバルの新作。『セクシリア』(82)でデビューし、初期アルモドバル作品の常連だったアントニオ・バンデラスが『アタメ』(89)以来、久しぶりに出演しているのもみどころ。

アルモドバルが好む状況や表現がこれでもかといわんばかりに詰め込まれ、濃密な空間を作り上げているが、まずはなんといっても“肌”に対するアプローチが素晴しい。本来なら肌の問題だけではすまない状況でありながら、それを「自己と他者を隔てる境界」としての肌に実に巧みに引き寄せ、独自の世界を切り拓いている。詳しいことはいずれまた。

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『裏切りのサーカス』 『ファウスト』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。まったく異なる意味でどちらも重量級といえる作品で、非常に見応えがあった。

『裏切りのサーカス』 トーマス・アルフレッドソン

スパイ小説の大御所ジョン・ル・カレが74年に発表した『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』の映画化。東西冷戦がつづく1970年代前半、英国諜報部<サーカス>上層部に潜むソ連の二重スパイ“もぐら”の正体をめぐって、<サーカス>と<KGB>の熾烈な情報戦が繰り広げられる。

本物のスパイは、銃撃戦やカーチェイスなどを繰り広げたりせず、人ごみに紛れ、物影にひそみ、緊張や孤独に耐え、静かに神経をすり減らしていく。「007」のように、舞台や人物がエキゾティシズムを漂わせることもない。

“もぐら”の正体を暴くという極秘任務を託されたジョージ・スマイリー(ゲイリー・オールドマンの抑えた演技が実に渋い)を中心に、登場人物たちが複雑に入り組むため、公式サイトに「必読」のコーナーが準備され、鑑賞前に最低限の設定を頭に入れていくことを勧めている。

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今週末公開オススメ映画リスト2012/03/01+α

週刊オススメ映画リスト

今回は『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』、『戦火の馬』、『ピナ・バウシュ 夢の教室』、『父の初七日』、『プリピャチ』(順不同)の5本です。

おまけとして『アリラン』のコメントをつけました。

『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』 ヴェルナー・ヘルツォーク

1994年南仏で発見されたショーヴェ洞窟、その奥には3万2千年前の洞窟壁画が広がっていた。フランス政府は貴重な遺跡を守るため、研究者や学者のみに入場を許諾してきた。ここに初めてヘツルォーク率いるスタッフが入り、3Dカメラによる撮影を敢行した。(プレスより)

野生の牛、馬、サイ、ライオン、あるいはフクロウ、ハイエナ、ヒョウなど、その豊かな表現力には息を呑む。「CDジャーナル」2012年3月号にこの作品のレビューを書いておりますので、ぜひお読みください。で、そのレビューを補うようなことをこちらに。

この映画から浮かび上がる世界は、『グリズリーマン』(05)や『Encounters at the End of the World(世界の果ての出会い)』(07)といったヘルツォークの近作ドキュメンタリーを踏まえてみるとさらに興味深いものになる。

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『プリピャチ』劇場用パンフレット

News

事故から12年後のチェルノブイリ、ゾーンのなかで生きる人々

“プリピャチ”とは、チェルノブイリ原発から4キロのところにあり、かつては発電所の労働者たちが暮らしていた街の名前だ。また、原発の脇を通ってドニエプル川に合流する川の名前でもある。この映画は事故から12年を経た時点で、原発から30キロ圏の立入禁止区域に暮らしていたり、そこで働いている人々の日常や彼らの言葉を記録したドキュメンタリーだ。

事故後、一度は移住したものの、故郷に戻ってきてそこで暮らしている老夫婦、事故以前からの職場だった環境研究所で働きつづけている女性、2000年まで運転が継続されていた発電所の3号機で働く技術者といった人々が登場する。『いのちの食べかた』のニコラウス・ゲイハルター監督の1999年作品。

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ナ・ホンジン 『哀しき獣』 レビュー



Review

社会的な視点と壮絶なアクションが根源的な痛みを炙り出す

ナ・ホンジンの『哀しき獣』では前作『チェイサー』以上に壮絶な死闘が繰り広げられるが、その世界に入り込むためには、中国の朝鮮族のことを少し頭に入れておくべきだろう。この物語には、中国にあって北朝鮮、ロシアと国境を接する延辺朝鮮族自治州と韓国の関係が反映されている。

中国朝鮮族と韓国は、1992年に中国と韓国の間で国交が結ばれたことをきっかけに経済的に急接近する。そして韓国との交易が延辺地区を潤すかに思われた。だが、韓国資本への一方的な依存は、アジア金融危機による打撃、あるいは差別や詐欺などの被害を生み出すことにもなった。それが『哀しき獣』の背景だ。

物語は延辺朝鮮族自治区・延吉から始まる。タクシー運転手のグナムは、韓国に出稼ぎに行った妻からの音信が途絶え、借金で首が回らなくなっている。そんな彼に、延吉を仕切る犬商人ミョンが、韓国に行って人を殺す仕事を持ちかける。グナムは、妻に会えるかもしれないと思い、それを引き受けてしまうが、黄海(映画の原題)の向こうには予想もしない悪夢が待ち受けている。

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