ポール・ハギス 『スリーデイズ』 レビュー

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代償は高くても自由を求める意味を考える

ポール・ハギスがアメリカ映画界で成功を収めるきっかけは、クリント・イーストウッド監督の『ミリオンダラー・ベイビー』(04)の脚本を手がけたことだった。F・X・トゥールの短編集『テン・カウント』(文庫のタイトルは『ミリオンダラー・ベイビー』)を原作にしたこの脚本には、ハギスの思いや独特の人生観を見出すことができる。

1953年、カナダ・オンタリオ州生まれのハギスは、20代でハリウッドにたどり着き、テレビの世界に入ってこつこつと経験を積み重ね、脚本家としての地位を築き上げた。しかしそれはあくまでテレビ界における評価だった。彼の夢は劇映画の脚本を書き、監督することだった。そこで、世紀が変わろうとするころ、40代後半にさしかかっていた彼は、だめもとで劇映画の脚本を書き出した。それが『ミリオンダラー・ベイビー』だった。

この映画に登場するヒロイン、マギーは、13歳からずっとウェイトレスとして働き、30代になってもボクシングのトレーニングを続けている。ハギスがそんな彼女に共感を覚えても不思議はないだろう。だが、彼が作り上げたのは、スポ根ものの成功物語ではない。

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キラン・アルワリアと『灼熱の魂』とカナダの多文化主義をめぐって

トピックス

「るつぼ」とは違う「モザイク」が生み出す文化と相対主義のはざまで

カナダは世界に先駆けて国の政策として多文化主義を導入した。その政策には二本の柱があった。一本は、ケベック州と残りのカナダがひとつの国家としてどのように存在すべきなのかという課題に答えるものだ。カナダの多文化主義の功罪をテーマにしたレジナルド・W・ビビーの『モザイクの狂気』では、以下のように記されている。

同委員会の勧告に基づいて、公式の政策声明が出された。カナダには二つの建国民族――フランス人とイギリス人――がいると宣言された。これ以後、カナダは二つの公用語――フランス語と英語――を持つことになる。カナダ人は一生いずれの言語で暮らしてもよい。一九六九年、この考えは確固不動のものになった。公用語制定法の通過に伴い、異集団間を支える主要な二つの礎石の一つ――二言語併用主義――が据えられた

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『別離』 試写



試写室日記

本日は試写を1本。

『別離』 アスガー・ファルハディ

世界的な注目を集めるイラン映画の異才ファルハディの新作。試写がはじまったらすぐに観にいきたいと思っていたが、なかなかタイミングがあわず、ちょっと遅くなってしまった。すでに世界各国で60冠を超える映画賞に輝いているということだが、それも当然だろう。

ファルハディの前作『彼女が消えた浜辺』(09)は、イランに限らずどこでも成り立つ物語に見えながら、実に巧妙にイランの歴史と現実が掘り下げられていた。筆者は『彼女が消えた浜辺』レビューで、イラン出身の評論家ハミッド・ダバシの著書『イラン、背反する民の歴史』を引用しつつ、この映画の背後にイランの中流と貧困層の非常に複雑な関係が潜んでいることを指摘した。

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ルカ・グァダニーノ 『ミラノ、愛に生きる』 レビュー

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グローバリゼーションに呑み込まれていく一族、自然のなかで心と身体を解き放つヒロイン

繊維業で成功を収めた富豪のレッキ一族に嫁ぎ、成人した三人の子供の母親として何不自由ない生活を送るエンマ。そんなヒロインが、息子の友人と恋に落ち、本当の自分に目覚めていく。ルカ・グァダニーノ監督のイタリア映画『ミラノ、愛に生きる』は、表面的にはメロドラマだが、そのありがちな展開のなかで社会の変化や個人のアイデンティティが実に巧妙に掘り下げられていく。

物語は雪化粧した冬のミラノ、エンマの義父である一族の家長の誕生日を祝うパーティの場面から始まる。そこに漂う格式ばった雰囲気は、一族の揺るぎない秩序を象徴している。だが、家族のやりとりには変化の兆しが見える。しかもその兆しは、かすかな不協和音を響かせている。

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今週末公開オススメ映画リスト2012/02/16

週刊オススメ映画リスト

今回は『昼下がり、ローマの恋』、『ザ・トーナメント』、『メランコリア』、『汽車はふたたび故郷へ』、『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』、『おとなのけんか』(順不同)の6本です。軽妙な恋愛オムニバス、意外な掘り出し物から、世界の終わりや9・11以後、ディアスポラ体験までいろいろと。

『昼下がり、ローマの恋』 ジョヴァンニ・ヴェロネージ

世代が異なる三組の男女の恋愛を軽妙なタッチで描いたオムニバス。注目度が高いのは、ロバート・デ・ニーロとモニカ・ベルッチが共演している三本目だろう。確かにそれも悪くはないのだが、個人的には一本目と二本目のひねりが巧みで、かなり楽しめたので、リストに加えることにした。

若気の至りを描く一本目。ローマに暮らし、恋人サラと結婚するつもりの野心的な青年弁護士ロベルトが、農場の立ち退き交渉を命じられ、トスカーナの田舎町に出張するが、そこで出会ったゴージャスな美女ミコルに心を奪われ、骨抜きになってしまう。

この話の面白さは、たとえば(ちょっと古くて恐縮だが)ピエラッチョーニの『踊れトスカーナ!』を思い出してもらえばわかりやすい。そこに描かれているように、普通はどうしようもなく退屈なトスカーナの田舎町に、外部から日常を忘れさせるような美女がやってきてというのが基本形だが、このエピソードはその図式をひっくり返して、退屈なはずの田舎町の方になぜか自由奔放な謎の美女がいる。

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