新藤兼人 『一枚のハガキ』 レビュー



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『一枚のハガキ』に響く自然の声――自然の声が届くとき、戦争の傷が癒されていく

新藤兼人監督が自ら「最後の映画」と宣言して作り上げた『一枚のハガキ』では、タイトルになっている「一枚のハガキ」が主人公の男女の人生を変えていく。上官が引いたクジで仲間たちが命を落とし、自分が生き残ったことに対する罪悪感を背負う松山啓太と、出征した夫やともに生きる家族を次々と亡くし、厳しい生活を強いられる森川友子。友子の夫・定造が啓太に託したハガキは、啓太と友子を繋ぐ一本の細い糸といえる。

たとえば、もし啓太の妻・美江が夫を待っていたとしたらハガキはどうなっただろう。啓太はすぐにそれを思い出し、友子に届けたかもしれないが、お互いに胸の内を吐露するようなことにはならなかったはずだ。美江が啓太の父親とできてしまったことは悲劇以外のなにものでもないが、だからこそハガキは主人公を導く運命の糸になる。

しかし、啓太と友子を繋ぎ、彼らに救いをもたらすものは、ハガキだけではない。この映画は、新藤監督の実体験をもとに、戦争の悲惨さや不条理が描き出される。だから私たちは、登場人物と彼らが繰り広げるドラマを見つめるが、この映画ではもう一方で、そんなドラマとは異なる世界が意識され、もうひとつの流れを形作っているように思える。

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『メランコリア』 劇場用パンフレット



News

鬼才ラース・フォン・トリアー最新作!2月17日(金)ロードショー

『奇跡の海』や『ダンサー・イン・ザ・ダーク』にも心を激しく揺さぶられたが、フォン・トリアーがうつ病を体験してから作り上げた『アンチクライスト』と『メランコリア』には、単に心の病とみなされるだけのものではなく、渡辺哲夫が“生命の輝きそのもののような狂気”と表現するものに匹敵するような、これまでと異なる次元から人間と世界を見切っているような凄みがある。

『メランコリア』の劇場用パンフレットに「人間の在り方を原点から問い直す――鬼才トリアーの世界」というタイトルで作品評を書いております。筆者がいま関心を持っていることのど真ん中にくるような作品で、深く深く引き込まれました。『メランコリア』の試写室日記もお読みください。いろいろ参考になるかと思います。

キャストも素晴らしいです。特に女優陣。キルスティン・ダンストとシャルロット・ゲンズブールが対極の世界観を見事に体現しているうえに、シャーロット・ランプリングが少ない出番のなかで強烈な存在感を放っています。

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『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』 『オレンジと太陽』 『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』 試写

試写室日記

本日は試写を3本。

『スーパー・チューズデー ~正義を売った日~』 ジョージ・クルーニー

ジョージ・クルーニーにとって4作目の監督作品。振り返ってみると、初監督作品の『コンフェッション』(02)から『グッドナイト&グッドラック』(05)、『かけひきは、恋のはじまり』(08)を経てこの『スーパー・チューズデー』(11)まで、3年ごとに監督作を発表していることになる。

筆者のサイトの方にアップしてあるジョージ・クルーニー論のタイトルは「優れたバランス感覚を備えたクレバーな映画人」だった。俳優としての演技の幅を着実に広げ、プロデューサーもやり、南スーダンへの支援などの人道的な活動も行いながら、定期的に監督業もこなすというのは、バランス感覚のあらわれなのかと思いたくなるところだが、実際にはそこまで計画的というわけではないようだ。

『スーパー・チューズデー』の企画は、2007年から製作の準備が開始され、2008年には撮影に入る予定だったが、タイミングが悪いということで延期することになった。プレスにはクルーニーのこんな説明がある。「ちょうどその頃にオバマが大統領に選出されて、アメリカ中が希望にあふれていた。誰もがハッピーで楽観的になっているときに、こういうシニカルな映画を撮るなんて間が悪すぎるよね。でも1年もしないうちに人々が再びシニカルになり始めたから、そろそろ製作を始めてもいい頃だと思ったんだ」

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オタール・イオセリアーニ 『汽車はふたたび故郷へ』 レビュー



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故郷を喪失したディアスポラとして生きることの孤独と痛み

オタール・イオセリアーニの新作『汽車はふたたび故郷へ』の世界は、『月曜日に乾杯!』や『ここに幸あり』といった近作に見られたような、ほのぼのとしてさり気なく皮肉をきかせた悲喜劇とは一線を画している。それは、この映画にイオセリアーニの自伝的な要素が盛り込まれていることと無関係ではない。

旧ソ連のグルジアで生まれ育ち、映画監督になった主人公ニコ。だが、厳しい検閲があるために、思うように映画を作ることができない。そんな彼は、上映禁止になったフィルムを海外に持ち出し、当局に目をつけられてしまう。

八方塞になった彼は、フランスに旅立ち、なんとか映画を撮るチャンスをつかむ。ところが今度は、ビジネスを優先するプロデューサーが創作の自由を奪い、映画を支配しようとする。

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今週末公開オススメ映画リスト2012/02/02

週刊オススメ映画リスト

今回は『人生はビギナーズ』『NINIFUNI』『ハンター』の3本です。

『人生はビギナーズ』 マイク・ミルズ

『サムサッカー』のマイク・ミルズの新作。ミルズのプライベート・ストーリーに基づく物語で、75歳にしてカミングアウトした父親と息子の絆が描かれる。月刊「宝島」2012年3月号の連載コラムでレビューを書いております。

父親はどんな時代をくぐり抜けてきたのか。それがわかっているとドラマがより深いものになる。ミルズの表現はさり気ないが、明らかに(特に50年代の)抑圧の時代を理解していてそのように描いている。

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