『コズモポリス』 『セレステ∞ジェシー』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『コズモポリス』 デヴィッド・クローネンバーグ

ドン・デリーロの同名小説をクローネンバーグが映画化。映画では切り捨てられているが、原作では、巨大ハイテクリムジンから莫大なマネーを動かすアナリスト、エリック・パッカーの物語の途中に、彼の命を狙うベノ・レヴィンの告白が挿入される。

その告白もかなりクローネンバーグ好みの世界になっている。『裸のランチ』『スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする』のように、書くことと狂気や幻想が結びつけられているからだ。たとえば、以下のような表現だ。

世界は何か自己充足した意味をもっているはずだ。しかし、実際に自己充足しているものなど何もない。すべてが他のものに入り込む。俺の小さな日々が光年に染み込んでいく。だから俺は他人を装うことしかできない。そしてそのために、こうした原稿を書いているとき、俺は自分が他人を引用しているように感じるのだ。俺にはよくわからない。書いているのは俺なのか、それとも俺がその口調を真似したいと思っている誰かなのか

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『建築学概論』 『三姉妹~雲南の子』 試写

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本日は試写を2本。

『建築学概論』 イ・ヨンジュ

韓国で恋愛映画初の400万人超の大ヒットを記録したという話題作。かつて初恋の痛みを分かち合った男女が、15年後に再会し、欠けていたピースを埋めて過去に決別を告げる。過去のふたりをイ・ジェフンとスジが、現在のふたりをオム・テウンとハン・ガインが演じている。

“フレンチ・フィーメイル・ニューウェーブ”で公開されるミア・ハンセン=ラブ監督の『グッバイ・ファーストラブ』(近くレビューをアップする予定)と比べてみても面白いかもしれない。どちらも初恋を題材にしていて、再会が描かれるだけではなく、そこに建築という異質な要素が絡んでくるからだ。

『建築学概論』は韓国ではリピーターが多かったようだが、それもわかる気がする。最初に観るときには、男女双方の複雑な感情を際立たせていく建築の要素が徐々に明確になるが、それをわかっていてみるとまた印象が変わるはず。

たとえばこの物語には、かつて交わされた彼女の家を建てるという約束が、15年後に果たされるという展開があるが、建築学科に通う大学1年の彼が思い描いた家と、建築士となった彼が実際に建てる家の距離からは、痛みや切ない感情を読み取ることができる。詳しいことはいずれレビューで。

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『パパの木』 『チャイルドコール 呼声』 試写

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本日は試写を2本。

『パパの木』 ジュリー・ベルトゥチェリ

長編劇映画デビュー作『やさしい嘘』(03)で注目を浴びたフランス出身の女性監督ジュリー・ベルトゥチェリの新作。どちらも愛する者の死を残された家族がどのように受け入れていくのかを描いていることになる。

オーストラリアの辺境に暮らす主人公一家は突然、大黒柱を喪うが、まだ幼い末娘のシモーンは、庭の巨木に父親がいると信じ、その思いが次第に家族に伝わっていく。

特殊効果を使うようなスーパーナチュラルな表現は一切やらず、すべてが自然との繋がりで描かれる。その自然がなかなか凄い。夜に窓を開けていると、突然なにかが飛び込んできて、部屋を舞う。それは巨大なコウモリなのだが、そんな野生の生き物に当たり前に取り巻かれた世界に引き込まれる。

一家は巨木に象徴される自然を通して、彼らにとって最も大切なものに目覚めていく。ジュディ・パスコーの『パパの木』という原作があるためかどうか定かではないが、安易に神秘性に頼ってしまうでもなく、感傷に流されるでもなく、母親が最後に口にする台詞に集約されるように、筋が一本通っていて実にいい映画である。詳しいことはまたレビューで書きたい。

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『リンカーン』 『ウィ・アンド・アイ』 試写

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本日は試写を2本。

『リンカーン』 スティーヴン・スピルバーグ

素晴らしいというよりは凄いというべきなのだろう。ある意味、スピルバーグの集大成といってもいいと思う。

この映画の原作となったドリス・カーンズ・グッドウィンの『リンカン』は長い。長いといっても、リンカーンの人生の最後の5年間に絞り込まれているので、一般的な伝記に比べれば扱っている時間ははるかに短いといえるが、映画が扱う時間はそれよりもずっと短い。大胆に切り落とされている。

1864年11月に2期目を目指す大統領選に勝利を収めてから、憲法修正第13条が下院で可決され永久に奴隷制が禁止され、1865年4月に暗殺されるまで。半年にも満たない。南部人の立場もほとんど描かれない。これはひとつ間違えば非常に危険な映画になりかねない。

ジェームズ・M・バーダマンの『ふたつのアメリカ史』に書かれているように、アメリカにはふたつの歴史がある(確か本書の帯には「リンカーンは悪魔である」という言葉が使われていた)。「北部」の見地に立って書かれた歴史が、アメリカ史の通史のように流通しているが、「南部」の見地に立てばもうひとつのアメリカが見えてくる。

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『ジャッキー・コーガン』 『隣人 ネクストドア』 試写

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『ジャッキー・コーガン』 アンドリュー・ドミニク

『ジェシー・ジェームズの暗殺』(07)のアンドリュー・ドミニク監督とブラッド・ピットが再び組んだ作品なので、当然、一筋縄ではいかない。筆者がチェックした限りでは、アメリカの評価は気持ちいいくらいに真っ二つに分かれている。大絶賛かボロクソか。

筆者は、ドミニク監督のアプローチが見えたところですんなりツボにはまる。ブログにも表れていると思うが、筆者はポスト・カトリーナのニューオーリンズに強い関心を持ち、それがどのように音楽や映画に表現されるかに注目してきた。

たとえば、クリスチャン・スコットの『アンセム』(07)、ダーティ・ダズン・ブラス・バンドの『What’s Going on』(06)、Ted Hearneの『Katrina Ballads』(10)、Hurray for the Riff Raffの『It Don’t Mean I Don’t Love You』(09)、ヴェルナー・ヘツォークの『バッド・ルーテナント』(09)、ロジャー・ドナルドソンの『ハングリー・ラビット』(11)、そして、最近の試写室日記に書いたばかりのベン・ザイトリンの『ハッシュパピー バスタブ島の少女』(12)などだ。

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