『MY HOUSE』 『まだ、人間』 試写+『アトモスフィア』上映会

試写室日記

本日は銀座近辺で試写を2本観たあとで、新宿眼科画廊で開かれた上映会に参加した。まったくの偶然だが、3本ともそれぞれに日本の現在、日常を強く意識した作品だった。

『MY HOUSE』 堤幸彦

堤監督がエンターテインメント大作とはまったく違うタイプの作品に挑戦。自分の意思でホームレスという生き方を選び、厳しい環境を受け入れつつも、都会に順応して軽やかに生きる主人公を通して、私たちの日常を見直す。音楽なしのモノクロ映画で、台詞も最小限といえるところまで削ぎ落とされている。

筆者が最も興味を覚えたのは、人物のコントラストを意識したドラマの構成だ。主人公のホームレスと普通の家族を対置させるような表現は不思議ではない。この映画では、主人公の可動式の家と郊外の小奇麗な一戸建てが対置される。その一戸建てには平均的な家族が暮らしているように思いたくなるが、この映画の場合はそうではない。

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『ミッドナイト・イン・パリ』 『ジョイフル♪ノイズ』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ミッドナイト・イン・パリ』 ウディ・アレン

アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞で脚本賞を受賞したアレンの新作。21世紀のアレンは定まった枠組みのなかで映画を作って、もはや逸脱することはないのかと思っていたが、そんなことはなかった。

プレスでは“タイムスリップ”という表現が使われているが、主人公が迷い込む世界が、本当の1920年代とは限らない。深夜0時を回った瞬間から始まる夢、あるいは妄想のようにも見え、曖昧にされているところがいかにもアレンらしい。

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『ル・アーヴルの靴みがき』 『レンタネコ』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ル・アーヴルの靴みがき』 アキ・カウリスマキ

アキ・カウリスマキにとって長編映画としては5年ぶりの新作であり、『ラヴィ・ド・ボエーム』(91)以来、2本目のフランス語映画となる。その『ラヴィ・ド・ボエーム』は観ておいたほうがよいと思う。マルセル・マルクスが再登場するだけではなく、物語がそこから再構築されているところがあり、現在のカウリスマキの境地を理解する手がかりになるからだ。

映画を観ながら、昔カウリスマキにインタビューしたとき、空間の造形についてこのように語っていたのを思い出した。

「時代についてはいつもタイムレスな設定をしようという気持ちがあります。たとえば普通は、70年代と50年代の家具を組み合わせるようなことはしないと思いますが、わたしは同じ画面のなかにいつも異なる時代を混在させています。 そして最終的には50年代へと戻っていく傾向があります。わたしは実際にその時代を体験したわけではありませんが、とても好きな時代なのです。誰もが経済的には貧しかったが、とてもイノセントで、もっとお互いに助け合い、幸福な時代でした」

そういうセンスにさらに磨きがかかっている。カウリスマキが、『浮き雲』(96)、『過去のない男』(02)、『街のあかり』(06)という三部作を完成させたあと、どういう方向に向かうのか大いに注目していたが、これまで暗示的に表現されていたものが具体化され、新たな次元へと踏み出していて、素晴しい。

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『私が、生きる肌』 『捜査官X』 『ミッドナイトFM』 試写

試写室日記

本日は試写を3本。

『私が、生きる肌』 ペドロ・アルモドバル

『抱擁のかけら』(09)につづくアルモドバルの新作。『セクシリア』(82)でデビューし、初期アルモドバル作品の常連だったアントニオ・バンデラスが『アタメ』(89)以来、久しぶりに出演しているのもみどころ。

アルモドバルが好む状況や表現がこれでもかといわんばかりに詰め込まれ、濃密な空間を作り上げているが、まずはなんといっても“肌”に対するアプローチが素晴しい。本来なら肌の問題だけではすまない状況でありながら、それを「自己と他者を隔てる境界」としての肌に実に巧みに引き寄せ、独自の世界を切り拓いている。詳しいことはいずれまた。

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『裏切りのサーカス』 『ファウスト』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。まったく異なる意味でどちらも重量級といえる作品で、非常に見応えがあった。

『裏切りのサーカス』 トーマス・アルフレッドソン

スパイ小説の大御所ジョン・ル・カレが74年に発表した『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』の映画化。東西冷戦がつづく1970年代前半、英国諜報部<サーカス>上層部に潜むソ連の二重スパイ“もぐら”の正体をめぐって、<サーカス>と<KGB>の熾烈な情報戦が繰り広げられる。

本物のスパイは、銃撃戦やカーチェイスなどを繰り広げたりせず、人ごみに紛れ、物影にひそみ、緊張や孤独に耐え、静かに神経をすり減らしていく。「007」のように、舞台や人物がエキゾティシズムを漂わせることもない。

“もぐら”の正体を暴くという極秘任務を託されたジョージ・スマイリー(ゲイリー・オールドマンの抑えた演技が実に渋い)を中心に、登場人物たちが複雑に入り組むため、公式サイトに「必読」のコーナーが準備され、鑑賞前に最低限の設定を頭に入れていくことを勧めている。

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