『アンチクライスト』『トスカーナの贋作』試写
試写を2本観た。
『アンチクライスト』 ラース・フォン・トリアー
試写室で河原晶子さんにお会いする。河原さんは2度目だそうだ。
すごい映画だった。「死」→「喪」→「森」→「動物と人間」→「pain」→「nature」→「genocide」と、筆者が強い関心を持っている要素が、すさまじい映像の力で次々と押し寄せてきて、心の準備もできないままに心拍数が上がり、最後は異様な興奮状態に陥っていた。こういう体験ができる映画はめったにない。本当に病んでないとこういう映画は撮れないだろう。
『トスカーナの贋作』 アッバス・キアロスタミ
キアロスタミがイランを離れて初めて撮った長編。「本物」と「偽物」、「現実」と「虚構」が入り組み、その境界が曖昧になるような構成は、イランでもやっていたことなので、その点については特に新鮮ということもなかったが、まったく違うところにこの監督の個性がよく出ていて、面白いと思った。
インタビューしてみるとわかるが、キアロスタミには、ちょっとひねくれているというか、意地悪なところがある。それが悪いというつもりはまったくない。むしろ監督にはそういう資質も必要であり、彼はそれを十分に備えている。そしてこの映画では、その資質が遺憾なく発揮され、深みを生み出している。
たとえば、最初の方の母親と息子のやりとりだ。息子が言葉で母親の痛いところをちくちくと突く。それが半端ではない。いたたまれなくなった母親は、席を立ち、逃げ出すように画面の奥の方に移動する。カメラのピントは手前に合っているので、彼女の姿はいくぶんぼやけているが、それでも煙草を吸っているのがわかる。このエピソードは、その後のドラマの伏線になっているが、詳しいことはまたいずれ。