レア・フェネール 『愛について、ある土曜日の面会室』 レビュー
三角形から引き出された複雑な感情が、面会室を緊張に満ちた濃密な空間に変える
フランス映画界の新鋭女性監督レア・フェネールの長編デビュー作『愛について、ある土曜日の面会室』では、マルセイユを舞台に三つの物語が並行して描かれ、最後に交差する。
サッカーに熱中し、ロシア系移民の若者と恋に落ちた少女ロール、仕事がうまくいかず恋人との諍いが絶えないステファン、息子の突然の死を受け入れられず、アルジェリアから息子が殺されたフランスにやってきたゾラ。そんな3人の主人公は、予期せぬ出来事や偶然の出会いなどによって、ある土曜日に同じ刑務所の面会室を訪れる。
こうした構成はひとつ間違えば、図式的で表面的なドラマになりかねない。面会室を訪れる人物と収監されている人物の関係がどのようなものであれ、その1対1という動かしがたい関係を軸に多様なドラマを生み出すのは簡単ではないように思えるからだ。
しかし、この映画では登場人物たちの複雑な感情が実に見事に炙り出されている。3人の主人公の世代や立場はまったく異なるが、彼らのドラマにはある共通点がある。鍵を握るのは三角形だ。1対1の関係にもうひとりの他者が絡むことによって多面的な視点や奥行きが生まれるのだ。
たとえば、ロールが、警官に暴行して収監された恋人に面会するだけなら平凡なドラマにしかならない。だが、未成年が面会するには保護者を同伴しなければならない。親に知られたくない彼女は、偶然に知り合った病院の職員を面会のたびに同伴する。するとそこに未熟なカップルだけのやりとりとは異質な心の動きが生まれ、波紋が広がっていく。
ゾラの場合は、息子を死に追いやった加害者の姉セリーヌに近づき、子守を引き受け、弟のことで打ちひしがれている彼女に代わって加害者に面会する機会を得る。そんな展開によって、加害者に対して異なる視点が切り拓かれていく。
そしてステファンに至っては、彼となんらかの関係を持つ人間が収監されているわけでもない。実は、彼に瓜二つの親友がいるという男と出会って親しくなり、やがてその男から受刑者である親友と面会室で入れ替わる話を持ちかけられる。当然、最初はとんでもない話だと思う。だが、優柔不断な人間だった彼は、危険な世界に踏み出すことで次第に変化し、恋人への想いも明確なっていく。
こうした三角形から引き出された複雑な感情が、クライマックスに集約され、面会室を緊張に満ちた濃密な空間に変える。その三角形には、移民の生活や同性愛者に向けられる眼差しといった社会的な要素から、フィルム・ノワール的な要素までもが違和感なく、柔軟に取り込まれている。フェネール監督が、ジェームズ・グレイに影響を受けていると聞けば、それも頷ける。
しかし81年生まれで、フランス人の若い女性監督が、グレイに目をつけ、彼の作品に通じる多面的で重厚な人間ドラマを作り上げてしまうというのは、やはりただ者ではない。
(初出:「CDジャーナル」2012年12月号、若干の加筆)