『羅針盤は死者の手に』 『転山』 『ホーム』 試写
22日から始まるTIFF(東京国際映画祭)の上映作品を3本。
『羅針盤は死者の手に』 アルトゥーロ・ポンス
メキシコの新人監督アルトゥーロ・ポンスの長編第一作。主人公は、シカゴにいる兄と暮らすためになんとか国境を越えようとする13歳の少年チェンチョ。国境の手前で立ち往生していた彼は、馬車に乗った老人に拾われるが、老人はコンパスを握ったまま死んでしまう。そして少年が死者と旅を続けていると、様々な事情を抱えた人々がそこに乗り込んできて…。
ブニュエルの世界を想起させるような作品であり、マジック・リアリズム的な感性から紡ぎ出される奇妙な物語ともいえる。評価は分かれるだろうが筆者は面白かった。馬車がジェリコーの『メデューズ号の筏』を思わせる世界になり、堂々巡りを繰り返すこの乗り物がメキシコの縮図に見えてくる。
『転山』 ドゥ・ジャーイー
上海生まれのドゥ・ジャーイー監督の劇場長編第1作。台湾に暮らし、大学を卒業した24歳の若者シューハオが、兄の遺志を継いで麗江からチベットのラサまで1800kmの自転車の旅に挑戦する。海抜2000m台から4000m台の間を何度も何度も上り下りし、5000mを越える難所が待ち構えるという過酷な旅の映像がすごい。山好きにはたまらない。
この手の作品は、実際にロケした映像が圧倒的であればあるほど、フィクションとしての物語と乖離する。小説を脚色した作品のようなので、フィクションの要素も重要なのだろうが、ウィンターボトムの『イン・ディス・ワールド』のようなアプローチであれば、この映像はさらに際立ったと思う。そこには、作り手が明確には意識していないような現実までもが映り込むことになるから。
『ホーム』 ムザッフェル・オズデミル
俳優としてカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞しているオズデミル監督の長編弟1作。環境問題をめぐって悲観的なヴィジョンに囚われた建築家が、イスタンブールから故郷に戻り、昔と変わらない場所を探し求めるが…。
監督自身が帰郷した際に抱いた印象を映画化した自伝的作品。おそらく開発で変貌した土地や風景がよほどのショックだったのだろう。感情論に大きく振れている。