今週末公開オススメ映画リスト2011/05/05

週刊オススメ映画リスト

今回は『4月の涙』と『昼間から呑む』の2本です。

『4月の涙』 アク・ロウヒミエス

クラウス・ハロ監督の『ヤコブへの手紙』といい、アク・ロウヒミエス監督のこの『4月の涙』といい、フィンランド映画は侮れない。「同じ国民が敵味方に分かれて戦ったフィンランド内戦」とか「敵同士の准士官と女性兵士の許されざる愛」といった表現から想像されるドラマとは異なる次元から歴史が読み直されている。月刊「宝島」2011年6月号の連載コラム「試写室の咳払い」でこの作品を取り上げています。

『4月の涙』 5月7日(土)より、シネマート新宿、銀座シネパトスほか全国順次公開

この『4月の涙』には、ゲーテの詩が引用される場面があるが、そこで思い出されるのが、クラウス・マイヤー=アービッヒの『自然との和解への道』(みすず書房、2005年)の冒頭に書かれた記述だ。アレハンドロ・アメナーバル監督の『アレクサンドリア』のレビューでも触れたが、もう一度、引用しておく。

「ゲーテはこの「共世界」という表現で、人間だけが「共[同じ]人間」(Mitmenschen)としてわれわれの共世界でありうると考えていたのではなかった。しかし、二〇世紀になって日常言語的にも哲学的にも(レーヴィット、ハイデガー)、共世界を人間だけの世界に狭めることになってしまった。他の言語においても、人間の外にある自然はわれわれのたんなる環境(Umwelt, environment)であるとみなされているように、人間以外の世界は経済学者たちが言うような一揃いの資源として、ただわれわれの回りにわれわれのために現存しているのである。こうした考え方こそまさしく人間中心主義的世界像の形態であるのだが、この立場こそが東西の工業国の自然危機を惹きおこしたのであった。人間だけがわれわれの共世界でありうるのではなく、他の生物そしていわゆる無機的自然ですらわれわれの共世界でありうるということを思い出させるために、私はゲーテの概念を使って世界を自然的共世界へ拡張したのである」

この言葉を踏まえて映画を観ると、まったく違った世界が見えてくるはずだ。

『昼間から呑む』 ノ・ヨンソク

インディペンデント映画の原点にある魅力を感じさせる作品。この映画を観ながら、アメリカでインディーズならではの味のある作品を作りつづける監督トム・ディチロにインタビューしたときのことを思い出していた。それは10年以上前、『リアル・ブロンド』の公開にあわせたインタビューだったが、次回作『Double Whammy』についての彼の説明が印象に残っている。“double whammy”という言葉は「ダブルパンチ、二重の不運、二重苦」などを意味するが、ディチロはこのように説明してくれた。

「“Double Whammy”っていうのは『リアル・ブロンド』でもたくさん起きている現象で、説明すると、人生のなかで何かひどいことが起き、やっと切り抜けて、もう二度とこんなひどい目には遭わないだろうって思っていると、窓からピアノが降ってくる、そんな踏んだり蹴ったりの状況を意味する表現なんだ。映画もまさにそういう内容のコメディだ」

『昼間から呑む』の主人公もまさにそんな状況におちいる。ノ・ヨンソク監督は、それをディチロと同じように語るタイプなのではないだろうか。

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