『The Rip Tide』 by Beirut and 『Bombay Beach』 by Alma Har’el

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訪れたことのない場所から過去や記憶のなかの場所へ

BeirutのフロントマンであるZack Condonが生み出す音楽と場所との関係は非常に興味深い。彼はニューメキシコのサンタフェで育ったが、これまでBeirutの音楽と彼のバックグラウンドに直接的な結びつきはほとんど見出せなかった。

Condonはバルカン・ブラスにインスパイアされて、Beirutのデビューアルバム『Gulag Orkestar』(2006)を作った。しかし、彼自身がバルカンを訪れ、音楽に接したわけではない。

『Gulag Orkestar』 (2006)

きっかけは、カレッジをやめてヨーロッパに行き、アムステルダムのアパートで従兄弟と暮らしていたときに、上階に住むセルビア人のアーティストがバルカン・ブラスのアルバムをがんがんかけていたことだった。

しかしCondonは、単にバルカン・ブラスに影響されてアルバムを作ったというわけではない。彼はよくインタビューで、自分が訪れたり、住んだりしたことのない「場所」により影響されることがあると語っているし、そういう指摘もされている。


Beirutの音楽は、固有の音楽が生み出される場所に対する想像力から生み出される。2枚目の『The Flying Club Cup』(2007)のインスピレーションの源になっているのは、古いフランス映画のなかにあるパリという場所であり、その場所と結びついたシャンソンだ。

『The Flying Club Cup』 (2007)

まったく異なるふたつの音源をカップリングしたダブルEP『March of the Zapotec and Realpeople Holland』(2009)にも、彼の音楽性が表われている。

『March of the Zapotec and Realpeople Holland』 (2009)

『March of the Zapotec』のきっかけは、メキシコ人移民を題材にした映画のサウンドトラックを依頼されたことだった。彼はサントラのヒントを得るため、監督からOaxacaの伝統的な音楽を収めたヴィデオを提供された。結局、映画の企画は立ち消えになったが、彼はその音楽に魅了され、存在しない映画のサントラといえるような音楽を作り上げた。

一方、『Realpeople Holland』には、15歳からBeirutを始動させるまでに作った曲(ほとんどシンセポップ)が収められている。Beirut以前と以後を比較してみると、場所と音楽の関係がまったく変わっていることがわかるだろう。

それでは先月リリースされたシングル『East Harlem』と8月末にリリースされる3枚目の『The Rip Tide』の場合はどうか。

『East Harlem』

Beirut – East Harlem by Revolver USA

<East Harlem>という曲がそのヒントになるだろう。ライブでCondon自身が語っているように、これは新曲であると同時に、17歳のときに作ったとても古い曲でもある。この新作は、これまでのように訪れたり、住んだりしたことのない場所にインスパイアされた音楽ではない。

『The Rip Tide』 (2011)

記憶のなかの場所にインスパイアされた音楽であり、曲によっては、現実の世界ではなく音楽のなかに存在する場所を放浪する感覚を表現しているようにも思える。あるいは、彼が現実の世界に見出してきた場所と、音楽を通して見出してきた場所を、統合する作品といってもよいかもしれない。

そしてもうひとつ、Condonがサントラを手がけた映画がある。女性監督Alma Har’elのドキュメンタリー『Bombay Beach』(2011)だ。

舞台はカリフォルニアにあるBombay Beach。50~60年代、郊外化の黄金時代に開発されたものの、いまではアメリカン・ドリームの崩壊の象徴になっている荒廃した地域、そこに暮らす人々を独自の視点から掘り下げていくドキュメンタリー。各国の映画祭で注目を集めているので、ぜひ観てみたい。

Bombay Beach // Trailer from Alma Har'el on Vimeo.

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Beirut
The Gulag Orkestar – Beirut
The Flying Club Cup – Beirut
March of the Zapotec & Realpeople – Holland – Beirut
The Lon Gisland – EP – Beirut
Elephant Gun – EP – Beirut
East Harlem – Single – Beirut

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