グレゴール・ジョーダン 『4デイズ』 レビュー
テロとの戦いや安全保障をめぐるアメリカのジレンマ
(公開延期になっていた『4デイズ』の公開日が再決定しましたので、『宝島』に書いたレビューをアップします)
かつて『戦争のはじめかた』で米軍を痛烈に風刺したオーストラリア出身のグレゴール・ジョーダン監督が、またアメリカ人が目を背けたくなるような作品を作り上げた。テロとの戦いや安全保障に関わるこの新作がアメリカであまり話題にならなかったのは、痛いところを鋭く突いていたからだろう。
映画は、改宗してムスリムになったアメリカ市民の男ヤンガーが、ビデオカメラに向かってメッセージを録画するところから始まる。彼は、国内の3都市に核爆弾を仕掛け、要求が受け入れられない場合には4日後に爆発すると予告する。
その要求が明らかになるのは終盤なのでここでは書かないが、最近のエジプト情勢なども思い出させる。
しかしこの映画では必死の捜査が描かれるわけではない。ヤンガーはすでに軍によって拘束されている。
極秘施設に軍の要人やFBIのテロ対策チームが召集され、当局に保護されている謎のエキスパート「H」と彼に指名されたFBIの女性捜査官ヘレンによって尋問が開始される。Hはいきなり男の小指を切断し、ヘレンは残虐な拷問に激しく反発する。だが進んで拘束された男は、すでに罠を張り巡らせ、ショッピングモールで起こった爆発によって53人の死者が出る。
1000万人の命を守るためには、非人道的な行為がどこまで許され、誰がその責任を負うのか。拷問がエスカレートし、男の前に彼の妻子が引き出されるに及んで、関係者たちの対立は激化し、混乱に陥っていく。ジョーダン監督はそんな修羅場を通して道徳的ジレンマを浮き彫りにしてみせるのだ。
■テロリスト役に挑んだのは、『クィーン』や『フロスト×ニクソン』などで注目を浴びたイギリス人の俳優マイケル・シーン。その鬼気迫る演技は必見だ。
(初出:月刊「宝島」2011年5月号)
出演:サミュエル・L・ジャクソン『交渉人』『パルプ・フィクション』、キャリー=アン・モス『マトリックス』シリーズ、マイケル・シーン『トロン:レガシー』『フロスト×ニクソン』、スティーヴン・ルート『路上のソリスト』『かけひきは、恋のはじまり』
監督:グレゴール・ジョーダン『インフォーマーズ』『ケリー・ザ・ギャング』『戦争のはじめかた』
脚本:ピーター・ウッドワード/プロデューサー:カルデコット・チャブ『ホッファ』
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