『Eternity of Dimming』 by Frontier Ruckus

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彼らはサバービアから生まれる音楽の可能性を確実に広げている

筆者が“サバービア”絡みで強い関心と愛着を持っているミシガン出身のバンド、Frontier Ruckusのニューアルバム『Eternity of Dimming』が出た。20曲入りのダブルアルバム。これは、アルバム日記としてさらりと紹介するよりも、少し時間をかけてレビューとしてアップしようと最初は思ったのだが、気持ちがそれを許さない。

仕事の原稿を書きながら、流していると心が揺さぶられてしまい、仕事が手につかない。これはもうひとまずアルバム日記として感じたことを吐き出してしまうしかない。

前作『Deadmalls & Nightfalls』アルバム日記で書いたように、このバンドが生み出す音楽の背景にはサバービアがある。前作では、彼らの地元ともいえるWaterford Townshipにあって、2009年に閉鎖されたショッピングモール、Summit Place Mallの写真がジャケットにも使われ、音楽のキーイメージにもなっていた。それは彼が知る固有のものであると同時に、全国に広がるデッドモールの象徴にもなっていた。

『Eternity of Dimming』

『Eternity of Dimming』

新作にも同じことがいえる。バンドのフロントマンであるMatthew Miliaの歌には、店の固有名詞が散りばめられている。それは、大手デパートチェーンのJ.C.ペニーやKOHL’S、ピザ・ショップのLittle Caesars、日本でもお馴染みのSubways、朝食メニューのレストラン・チェーンのIHOP、建築資材や家庭用品を扱うチェーンのHome Depot、コンビニやボーリング場、クルマの特約店などだ。それは彼らの地元であるデトロイト郊外の風景であると同時に、アメリカ全土に広がるサバービアの風景でもある。


そこでポイントになるのが、彼らが紡ぎ出すサウンドだ。簡単にいえば、バンジョーやマンドリンがひとつの特徴となるようなフォークやカントリーのスタイルといえる。この詞の世界とサウンドの組み合わせをどう受け止めるか。サウンドに惹かれたのに、詞から土臭い世界が浮かび上がってこない、逆に、詞に惹かれたのに、サウンドが土臭くていやだということで、好みが分かれてしまうのであれば、それは非常に残念なことだ。

彼らはただの真新しさを狙ってそんな組み合わせにたどり着いたわけではない。そこには間違いなくサバービアから生み出される新しい音楽のかたちがある。

これは前作のアルバム日記でも少し引用したことではあるが、彼らの音楽は、佐々木友輔監督の作品と比較してみるとわかりやすい。佐々木監督は郊外を題材にした映画を撮り続けているが、『彁 ghosts』、『夢ばかり、眠りはない』、『新景カサネガフチ』、『アトモスフィア』のどこが新鮮であるのかといえば、郊外に対する視点が違うからだ。これまで郊外は、歴史がなく、画一的で不毛というようにとらえられてきたが、その郊外にも新しい施設が廃墟になる時間の流れがあり、そこに暮らしてきた人々の感情や夢や記憶が地層のように積み重なっている。佐々木監督は、その見えないものを独自の映像表現で炙り出していく。

Frontier Ruckusのサバービアに対する視点も、大雑把にいえばそれに近い。だからこそデッドモールも題材にしている。そして、サバービアの時間、そこに積もった見えない地層と共鳴していくためには、なにか土地に根ざしたようなサウンド、スタイルというものが必要になる。そこのところがピンとくると、彼らの音楽に深く引き込まれる。

さらに、このブログの『Red Planet』by Arborea『ウィンターズ・ボーン』のすすめで書いたように、筆者がバンジョーという楽器の響きと可能性に注目しているということもある。Frontier Ruckusの音楽では、均質化を象徴する固有名詞が散りばめられたサバービアの世界に、バンジョーがなにかを呼び覚まそうとするかのように響き、見えない地層を炙り出す。

これはあくまで彼らの音楽の特徴を踏まえた筆者の想像に過ぎないが、彼らを支持するリスナーは、集団ではなく個人であると思う。これまでのフォークやカントリーなら、地域性を共有する集団が支持するだろうが、彼らは明らかに違う。逆に、サバービアで垂れ流されるプロモーションに反応するような集団も、彼らのサウンドを好まないと思う。彼らの音楽に反応し、支持するようになるのは、おそらくサバービアに暮らし、詞の世界とサウンドの深い結びつきを直観で感じとる個人であり、しかも深くはまる。実際に彼らのTwitterにはそういう傾向があるような気もする。

だから筆者もあまり声高に宣伝しても意味はないとは思うのだが、どうにもはまってしまっているので、いずれもう少しまとまりのあるレビューをアップすることにしたい。