『Red Planet』 by Arborea
メイン州の豊かな自然、媒介としての音楽
『Red Planet』は、Arboreaのニューアルバムだ。Arboreaは、Buck CurranとShanti Curranという夫婦のユニットで、メイン州を拠点に活動している。
たとえば、ニューオーリンズを拠点に活動するグループHurray for the Riff Raffや、このArboreaの音楽には、“メディア”という言葉がかつて持っていた意味を思い出させるような独特の響きを感じる。
加藤秀俊の『メディアの発生――聖と俗をむすぶもの』(中央公論新社、2009年)では、メディアが持っていた意味がこのように説明されている。「その原型になっているのは聖俗をつなぐ「霊媒」のことでもあったのだ。そのような意味での「メディア」は現代の文明世界でもけっして消滅したわけではない」
もちろん、たとえばすでにこのブログで取り上げているJana WinderenやRichard Skeltonの音楽にもそれは当てはまる。にもかかわらず、ここで特にHurray for the Riff RaffとArboreaに注目しようとするのにはわけがある。
Hurray for the Riff Raffの音楽の核になっているのは、ヴォーカルとバンジョーを担当するAlynda Lee Segarraであり、Arboreaの核になっているのは、ヴォーカルと主にバンジョーを担当するShanti Curranだ。彼女たちのヴォーカルとバンジョーは、聖俗をつなぐ共鳴装置になっていると思う。
興味深いのは、彼女たちがバンジョーを弾き、歌うようになる経緯だ。
プエルトリコ系のAlyndaは、17歳でブロンクスの家を飛び出し、放浪のなかでニューオーリンズにたどり着き、あるグループでウォッシュボードを担当することになった。そんな彼女を変えたのが、ハリケーン・カトリーナだ。
カトリーナがニューオーリンズを襲ったとき、彼女はツアーに出ていた。変わり果てた街を目の当たりにした彼女は、放浪をやめ、ニューオーリンズに根を下ろし、知り合いのミュージシャンからもらったバンジョーを習得し、曲を作るようになった。
Hurray for the Riff Raff – Bricks from benjamin & stefan ramirez perez on Vimeo.
そんなAlyndaはかつて、emusic.comのインタビューでこのように語っていた。「私の曲はニューオーリンズの生活と結びついていると思う。ニューオーリンズに暮らす人々は、それぞれの理由で死と密接な関係を持っていて、ここに長く暮らせば暮らすほど死が身近なものになっていく」
Alyndaのヴォーカルやバンジョーは、生者と死者をつなぐ媒介、共鳴装置になっている。
それでは、Shanti Curranの場合はどうか。夫婦は必ずしもミュージシャンを目指していたわけではない。夫のBuckはギター・ビルダーで、Shantiはカメラマンだった。ふたりで音楽をはじめるきっかけは、2005年の夏、BuckがShantiの誕生日にバンジョーをプレゼントしたことだった。
そこで見逃せないのは、Buckが、妻にとってバンジョーが“触媒”になると考えていたことだ。では、なんの触媒なのか。彼らのインスピレーションの源になっているのは、メイン州の豊かな自然だ。夫婦は、ヘラジカやハクトウワシに遭遇するような自然のなかで生活している。
Shantiのヴォーカルとバンジョーは、自然と人間を結ぶ共鳴装置になっている。夫婦は曲によっては、Shantiの曽祖父が立てた古い小屋でレコーディングをしているともいう。そんな自然とのつながりは、Arboreaの初期の曲である<River and Rapids>や<Black Mountain Road>のミュージックビデオによく表われている。長くなってしまったので、『Red Planet』については、近いうちにレビューで書くことにしたい。
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Hurray for the Riff Raff
Young Blood Blues – Hurray for the Riff Raff
It Don’t Mean I Don’t Love You – Hurray for the Riff Raff
Arborea
Red Planet – Arborea
House of Sticks [Remastered] – Arborea
Arborea – Arborea
Wayfaring Summer – Arborea
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