アブデラティフ・ケシシュ 『アデル、ブルーは熱い色』 レビュー
階層と成長期に培われる価値観、食と集団をめぐるドラマに見るケシシュの世界
カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いたアブデラティフ・ケシシュ監督の『アデル、ブルーは熱い色』は3時間の長編だが、物語そのものはシンプルだ。
高校生のアデルは、道ですれ違ったブルーの髪の女に一瞬で心を奪われる。再会を果たした彼女は、画家を目指す美学生エマにのめり込んでいく。数年後、夢を叶えて幼稚園の先生になったアデルは、画家になったエマのモデルをつとめながら彼女と生活を共にしているが、やがて破局が訪れる。
チュニジアで生まれ、南仏ニースで育ったケシシュは、マグレブ系移民を作品に登場させても、国家や文化をめぐる単純な二元論に落とし込むのではなく、共通性を掘り下げ、より普遍的な世界を切り拓いてきた。
そうした姿勢は、新作にも引き継がれている。独自の美学に貫かれたラブシーンが鮮烈な印象を残す“ガール・ミーツ・ガール”の物語ではあるが、同性愛がテーマになっているわけではない。