アレクサンダー・ペイン 『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』 レビュー

Review

寄り道とサイレントを愛するアレクサンダー・ペインの美学

アレクサンダー・ペインは、これまで日本公開(あるいはDVD化)された4本の作品すべてで、監督のみならず脚本も手がけていた。しかし、新作『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』では、脚本にはクレジットされていない。ボブ・ネルソンのオリジナル脚本はペインのために書かれたものではないが、そこには彼のイマジネーションを刺激する要素が十分に盛り込まれていた。

ペインの『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』(99)や『アバウト・シュミット』(02)は、原作小説ではそれぞれニュージャージーとロングアイランドが舞台になっているが、彼はそれらを自分の出身地であるネブラスカ州オマハに変更して映画化した。そんな故郷にこだわりを持つペインが、ネブラスカ州を舞台にした物語に惹かれないはずはないだろう。

しかしもちろん、舞台や風景だけではペインの世界にはならない。この新作には他に注目すべき点がふたつある。ひとつは“寄り道”だ。ペインの作品では、旅のなかの寄り道が重要な意味を持つ。それは主人公の過去に通じていて、人物の内面を映し出していく。

続きを読む

『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』 劇場用パンフレット

News

寄り道とサイレントを愛するアレクサンダー・ペインの美学

2014年2月28日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ&新宿武蔵野館ほかにて全国ロードショーになるアレクサンダー・ペイン監督の新作『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(13)の劇場用パンフレットに、上記のようなタイトルで作品評を書いています。キャストは、ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキッブ、ボブ・オデンカーク。

“モンタナ州のウッドロウ・グラント様 貴殿は100万ドルに当選しました”――誰が見ても古典的でインチキな手紙を、すっかり信じてしまったウディは、はるか彼方のネブラスカ州リンカーンまで、歩いてでも賞金を取りに行くと言ってきかない。息子のデイビッドは、大酒飲みで頑固な上に年々思い込みが激しくなっていくウディとは距離を置いていた。だが、母と兄に止められても決して諦めようとしない父を見兼ね、骨折り損だと分かりながらも彼を車に乗せて、4州にわたる旅に出る。[ プレスより]

ギリシャ系の監督ペイン(本名:パパドプロス)とギリシャのアテネ生まれの撮影監督フェドン・パパマイケル(彼のキャリアの出発点にはギリシャ系のジョン・カサヴェテスという存在があり、息子のニック・カサヴェテスとも仕事をしている)。そんなギリシャ・コネクションが生み出した、独特の雰囲気を醸し出すモノクロ映像が素晴らしいです。

続きを読む

アレクサンダー・ペイン 『ファミリー・ツリー』 レビュー



Review

連綿とつづく生の営み

『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』(99)、『アバウト・シュミット』(02)、『サイドウェイ』(04)、そして7年ぶりの新作となる『ファミリー・ツリー』。アレクサンダー・ペイン監督の作品には共通点がある。人生の危機に直面した主人公の行動や心理がユーモアを交えて描き出される。そういう設定やスタイルで映画を撮る監督は他にもいるが、ペインは一線を画している。実はこの四作品にはすべて原作となった小説があるが、他の監督が映画化しても、彼のような世界が切り拓けるわけではない。

あまり目立たないが、ペインの作品には別の共通点がある。まず『ハイスクール白書』を振り返ってみよう。ネブラスカ州オマハを舞台にしたこの映画では、表彰もされた信頼が厚い教師が、上昇志向のかたまりのような女子生徒の生き方に抵抗を覚えたことがきっかけで人生の歯車が狂い出し、仕事も家庭もすべてを失ってしまう。最後に逃げるようにニューヨークに向かった彼は、自然史博物館の教育部門に就職し、新たな人生を歩み出す。筆者が注目したいのは、その自然史博物館に展示された原始人のジオラマだ。さり気なく映像が挿入されるだけなので記憶している人は少ないだろう。

続きを読む

『マクダルのカンフーようちえん』 『桐島、部活やめるってよ』 『鍵泥棒のメソッド』 試写

試写室日記

本日は試写を3本。

『マクダルのカンフーようちえん』 ブライアン・ツェー

子ブタのキャラを主人公にした「マクダル」シリーズの最新作。以前公開された『マクダル パイナップルパン王子』とは違い、今回は日本語吹き替え版なので、細かなニュアンスがいくぶんぼやけている気がしないでもないが、それでも様々な“含み”が埋め込まれていることは読み取れる。

筆者が最も印象的だったのは、“発明”と“推手”の対比だ。

この映画には、マクダルの18代前のご先祖様であるマクデブが登場する。彼は発明家でもあり、電話やクレジットカードなど様々なものを発明したことになっている。だが、それらは役に立たなかった。その訳は、時代が早すぎたというのとはちょっと違う。たとえば、電話が分かりやすいと思うが、発明してもそれを使って話す相手がいなかったのだ。つまり、他者との関係性がないから、役に立たなかったということになる。

続きを読む

『ファミリー・ツリー』劇場用パンフレット



News

ジョージ・クルーニー主演の話題作!5月18日(金)ロードショー

本年度アカデミー賞で脚色賞に輝いたアレクサンダー・ペイン監督の最新作『ファミリー・ツリー』の劇場用パンフレットに、「連綿とつづく生の営み」というタイトルで、これまでのペイン作品(『ハイスクール白書 優等生ギャルに木をつけろ!』『アバウト・シュミット』『サイドウェイ』)を踏まえて新作の魅力を探るコラムを書いています。

ペイン作品といえば、人生の危機に直面した主人公の姿がすぐに思い浮かんできますが、筆者は、もうひとつ、まったく違った共通点があるところに興味を覚えていました。そして、『ファミリー・ペイン』では、これまであまり目立たなかったその共通点が、より明確になっています。コラムでは、そのあたりから作品の魅力に迫っています。

続きを読む