『アジア映画の森――新世紀の映画地図』に寄稿しています

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進化しつづけるアジア映画を網羅した決定版ガイドブック登場!

東は韓国から西はトルコまで、アートからエンターテインメントまで、アジア映画を国別の概論、作家論、コラムなどで網羅したガイドブック『アジア映画の森』が出ました(2012年5月31日発売)。

表紙は、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の『ブンミおじさんの森』。いいですねー(筆者が劇場用パンフレットに書いた『ブンミおじさんの森』レビューもぜひお読みください)。

執筆者は以下の方々です。麻田豊/アン・ニ/石坂健治/市山尚三/稲見公仁子/井上徹/宇田川幸洋/浦川留/大場正明/岡本敦史/金子遊/金原由佳/葛生賢/斉藤綾子/佐野亨/白田麻子/杉原賢彦/鈴木並木/諏訪敦彦/夏目深雪/野崎歓/野中恵子/萩野亮/梁木靖弘/クリス・フジワラ/古内一絵/古川徹/松岡環/松下由美/門間貴志/四方田犬彦(敬称略)。

『アジア映画の森――新世紀の映画地図』(作品社、368ページ)

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アピチャッポン・ウィーラセタクン 『ブンミおじさんの森』 レビュー

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私たちはブンミによって現世と他界の境界に導かれる

アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の『ブンミおじさんの森』には、常識では計り知れない出来事が起こる。だが、それを単純にファンタジーと表現してしまうと、何か大切なものが抜け落ちてしまうように感じる。

死期を悟ったブンミは、森の奥へと分け入り、洞窟の深い闇のなかで、自分がそこで生まれたことを思い出す。「生きているうちは思い出せなかったが」と語る彼は、すでに死者の側から世界を感知している。私たちはブンミによって現世と他界の境界に導かれている。そこで思い出されるのは「山中他界観」だ。

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ミケランジェロ・フランマルティーノ 『四つのいのち』 レビュー

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ドキュメンタリーとフィクションの境界を超え、独自のアニミズムの世界を切り拓く

イタリア出身の新鋭ミケランジェロ・フランマルティーノが監督した『四つのいのち』(2010)の舞台は、南イタリア・カラブリア州の山岳地帯だ。映画の導入部では、黙々と山羊の世話をする年老いた牧夫の生活が、静謐な映像のなかに描き出される。

だがこの牧夫はタイトルにある“四つのいのち”のひとつに過ぎない。やがて彼は息を引き取り、入れ替わるように仔山羊が誕生する。その仔山羊は群れから逸れ、樅の大木の下で眠りにつく。冬が過ぎて春になると樅の大木が切り倒され、村の祭りのシンボルとなる。そして祭りが終わると、大木は伝統的な手法で炭となる。この映画では、人間、動物、植物、無機物がサークルを形成していく。

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『哲学者とオオカミ――愛・死・幸福についてのレッスン』 マーク・ローランズ

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オオカミという他者を通して人間とは何なのかを考察する

想田和弘監督の『Peace ピース』(7月16日公開予定)の試写を観たときに最初に思い出したのがこの本のことだった。そこでぱらぱらと読み返してみた。

最初に読んだときも引き込まれたが、今では著者の言葉がもっと身近に感じられる。それは、『ブンミおじさんの森』、『アンチクライスト』、『四つのいのち』、『4月の涙』(野生のオオカミが出てくる場面がある)、『蜂蜜』、『エッセンシャル・キリング』といった作品を通して、人間と動物の関係に以前よりも鋭敏になっているからだろう。

マーク・ローランズはウェールズ生まれの哲学者で、本書では、ブレニンという名のオオカミと10年以上に渡っていっしょに暮らした経験を通して、ブレニンについて語るだけではなく、人間であることが何を意味するのかについても語っている。

↓ この人がローランズだが、いっしょにいるのはもちろんブレニンではない。ブレニンは、各地の大学で教えるローランズとともに合衆国、アイルランド、イングランド、フランスと渡り歩き、フランスで死んだ。ローランズはその後マイアミに移り、この映像はそこで撮影したものだ。

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『エッセンシャル・キリング』試写

試写室日記

本日は試写を1本。

『エッセンシャル・キリング』 イエジー・スコリモフスキ

『アンナと過ごした4日間』で見事な復活を遂げたポーランドの巨匠スコリモフスキの新作。主演はヴィンセント・ギャロ。ヴェネチア国際映画祭で、審査員特別賞と主演男優賞を獲得している。

作品の構造は、ジャームッシュの『ダウン・バイ・ロウ』を想起させる。『ダウン・バイ・ロウ』では、一部のニューオーリンズから二部の刑務所、そして三部の脱獄後の空間へと、情報や記号が消し去られていき、主人公たちは時代も場所も定かではないどこでもない場所へと彷徨いだす。

スコリモフスキはそれを9・11以後の世界でやってしまう。アフガニスタンから始まり、捕虜として収容所に連行され、逃亡の先にはどこでもない場所が広がる。

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