テレンス・マリック 『トゥ・ザ・ワンダー』 レビュー

Review

彼女を目覚めさせ、解放するもの

テレンス・マリック監督の『トゥ・ザ・ワンダー』には、愛し合う男女や苦悩する神父の姿が描き出されるが、そんな登場人物を追いかけ、物語を見出すだけでは、おそらく深い感動は得られないだろう。マリックが描いているのは、人間ドラマというよりは、人間を含めた世界の姿だといえる。

しかもその世界は誰の目にも同じように見えるわけではない。この映画には、見えない糸が張り巡らされ、それをどうたぐるかによって感知される世界が変わってくるように思えるからだ。

ではなぜマリックはそんな表現を切り拓くのか。おそらく人間中心主義や比較的新しい哲学である環境倫理学と無関係ではないだろう。環境倫理学の創始者のひとりJ・ベアード・キャリコットはその著書『地球の洞察』の日本語版序文で、このようなことを書いている。

西洋哲学は長年にわたって人間中心主義の立場をとり、「自然は『人間』のための支援体制や共同資源、あるいは人間のドラマが展開する舞台に過ぎなかった」。これに対して環境倫理学者たちは、「人間の位置を自然の中に据えて、道徳的な配慮を人間社会の範囲を越えてひろく生物共同体まで拡大しようとした」。

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『トゥ・ザ・ワンダー』 劇場用パンフレット

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彼女を目覚めさせ、
解放するもの

告知がたいへん遅くなってしまいましたが、8月9日(金)より公開中のテレンス・マリック監督の新作『トゥ・ザ・ワンダー』の劇場用パンフレットに上記タイトルでレビューを書いています。

これまでマリックは作品の時代背景を50年代か、それ以前の時代に設定し、同時代を正面から描くことがありませんでしたが、この新作では現代の世界を描いています。

ただしマリックのことですから、もちろん現代だけを見つめているわけではありません。新作には、前作『ツリー・オブ・ライフ』のような宇宙や生命の起源をめぐる大胆な表現は見られませんが、そんな独自の視点は日常的な世界の細部に引き継がれています。

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今週末公開オススメ映画リスト2011/02/03+α

週刊オススメ映画リスト

今回は『ザ・タウン』『再会の食卓』『心中天使』の3本です。

おまけとして『ウォール街』の続編『ウォール・ストリート』とブラッド・アンダーソン監督の『リセット』の短いコメントをつけました。

『ザ・タウン』 ベン・アフレック

ベン・アフレックの監督第2作。強盗が家業のように引き継がれている共同体。そんな共同体が内部と外部の双方から崩壊していくことが、このドラマをより印象深いものにしている。詳しいことは『ザ・タウン』レビューをお読みください。

『再会の食卓』 ワン・チュエンアン

前作『トゥヤーの結婚』とこの『再会の食卓』。二作つづけて二人の夫を持つヒロインの物語を映画にする監督などそうそういるものではない。そういう家族のかたちが、個人と社会や歴史を深く結びつけ、複雑な感情が描き出される。詳しいことは『再会の食卓』レビューをお読みください。

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ベン・アフレック 『ザ・タウン』レビュー



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土地そのものとの関係が希薄な幻想の共同体と確かな感触を持つ土を媒介にした絆

ベン・アフレックの監督第2作、チャック・ホーガンのミステリー『強盗こそ、われらが宿命<さだめ>』を映画化した『ザ・タウン』でまず興味をそそられるのは、物語の舞台となるマサチューセッツ州チャールズタウンだ。

ボストンの北東部に位置し、住民たちが“タウン”と呼ぶこの地域は、他のどの地域よりも多くの銀行強盗、現金輸送車強盗を生み出してきた。もちろんそれには理由がある(ことになっている)。かつてチャールズタウンには凶悪犯罪者用の最重要警備刑務所が存在し、その刑務所が移転したあとも、犯罪者の共同体が残った。

アフレックがそんな背景に関心を持っていたことは、プレスに収められら彼のコメントから察せられる。

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