フアン・アントニオ・バヨナ 『インポッシブル』 レビュー

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イニシエーションなき時代における大人になるためのイニシエーションを描いた映画

スペインの新鋭フアン・アントニオ・バヨナ監督の『インポッシブル』は、多くの犠牲者を出した2004年のスマトラ島沖地震で被災し、苦難を乗り越えて生還を果たした家族の実話に基づいている。この映画には、大きく分けて三つの見所がある。

まず、大津波の現実が、凄まじい臨場感で非常にリアルに再現されている。私たちは、過去ではなく現在進行形の出来事として、この未曾有の災害を追体験することになる。

それから家族の絆だ。主人公は、ヘンリーとマリアのベネット夫妻とルーカス、トマス、サイモンという3人の息子たち。タイのリゾート地で休暇を過ごしていたこのイギリス人一家に大津波が襲いかかる。マリアと長男のルーカスは激しい濁流にのみ込まれ、他の3人と引き離されてしまう。過酷なサバイバルを余儀なくされるマリアとルーカス、そして必死に二人を探し続けるヘンリー。彼らの姿からは、家族の強い絆が浮かび上がってくる。

このふたつは、映像やドラマからダイレクトに伝わってくるので、あまり言葉を費やす必要もないだろう。だがこの映画にはもうひとつ、見逃せないテーマが盛り込まれている。それは、ルーカスにとってこの体験が、大人になるためのイニシエーション(通過儀礼)になっているということだ。

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今週末公開オススメ映画リスト2013/06/12

週刊オススメ映画リスト

今回は『インポッシブル』『嘆きのピエタ』『スプリング・ブレイカーズ』『3人のアンヌ』の4本です。

『インポッシブル』 フアン・アントニオ・バヨナ

2004年のスマトラ島沖地震で被災し、苦難を乗り越えて生還を果たした家族の体験に基づく物語です。筆者は以下のようなコメントを寄せました。新聞の広告でご覧になった方がいらっしゃるかもしれません。

「壮絶なサバイバルが浮き彫りにするのは家族の絆だけではない。長男にとって大人になるための重要な通過儀礼になっていることが、ドラマを普遍的で奥深いものにしている。」

この映画が時と場所を超えて私たちに迫り、心を揺さぶるのは、大人になるためのイニシエーション(通過儀礼)が、現代という時代を踏まえて鮮明に描き出されているからです。

そういう意味では、『ハッシュパピー バスタブ島の少女』とともに、イニシエーションなき時代のイニシエーションを描いた作品として出色の出来といえます。

作り手がいかにイニシエーションを意識し、緻密に表現しているかについては、劇場用パンフレットに書かせていただきましたので、ぜひそちらのほうをお読みください。

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マイク・ミルズ 『人生はビギナーズ』 レビュー

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50年代と冷戦以後、父と息子の関係から浮かび上がるふたつのサバービア体験

マルチなクリエーターの長編デビュー作といえば、表現は個性的でも底の浅い作品なのではないかと思いたくなるところだが、06年に公開されたマイク・ミルズの『サムサッカー』(05)はそんな先入観を見事に吹き払い、現代のサバービアにおける個人の在り様を実に巧みにとらえていた。

そして、ミルズのプライベートストーリーを映画化した新作『人生はビギナーズ』はさらに素晴らしい。彼の父親は、45年連れ添った妻に先立たれたあと、75歳にして同性愛者として残りの人生を楽しみたいとカミングアウトし、その言葉を実行し、告白から5年後に他界したという。

この映画では、ミルズの分身オリヴァーとカミングアウトした父親ハルとの関係、かつての両親の生活や自分という存在を見つめなおすオリヴァーの回想、父親を癌で亡くした喪失感に苛まれる彼と風変わりな女性アナとの出会いという三つの流れが、時間軸を自在に操ることで絶妙に絡み合っていく。

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シャロン・マグアイア 『ブローン・アパート』レビュー

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テロで家族を奪われたヒロインはいかにして喪失を受け入れるのか

『ブローン・アパート』のヒロインは、警察の爆弾処理班の夫と4歳の息子とロンドンのイーストエンドに建つ公団に暮らす“若い母親”(ミシェル・ウィリアムズ)だ(この映画では彼女の名前は明確にされない)。夫の危険な仕事が大きなストレスになっていた彼女は、パブで出会ったジャスパー(ユアン・マクレガー)と関係を持ってしまう。彼は公団の向かいに建つジョージアン様式の建物に暮らす新聞記者だった。

そして事件が起こる。夫と息子をサッカー観戦に送り出した彼女は、路上で偶然再会したジャスパーと情事に耽っていた。そのときテレビのサッカー中継が爆音にかき消される。スタジアムで自爆テロが起こったのだ。このテロで息子と夫を亡くした彼女は、罪悪感と喪失感に苛まれる。ジャスパーと夫の上司だったテレンスが、そんな彼女に手をさしのべようとするが、やがてテロ事件をめぐる秘密が明らかになる。

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1月29日(土)より銀座シネパトス他にて全国順次ロードショー (C) 2008 CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION/INCENDIARY LTD. ALL RIGHTS RESERVED

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