『行き止まりの世界に生まれて』|ニューズウィーク日本版のコラム「映画の境界線」記事

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荒廃するラストベルト、悲惨な過去を乗り越えようとする若者の葛藤、『行き止まりの世界に生まれて』

ニューズウィーク日本版のコラム「映画の境界線」の2020年9月3日更新記事で、アメリカの新鋭ビン・リューの長編デビュー作となるドキュメンタリー『行き止まりの世界に生まれて』(18)を取り上げました。

産業が衰退したラストベルトにある街ロックフォードを舞台に、もがきながら成長する3人の若者を描いています。一見すると、子供の頃からそれぞれに父親や継父に暴力を振るわれてきた3人が、スケートボードにのめり込み、そのなかのひとり、ビンがビデオグラファーになり、仲間を撮るうちにドキュメンタリーに発展し、本作が誕生したかのように見えますが、実は作品の出発点は別のところにあり、非常に複雑なプロセスを経て完成にこぎ着け、結果としてドキュメンタリーの枠を超えたドキュメンタリーになっています。その隠れた出発点やプロセスがわかると、作品の印象も変わるのではないかと思います。

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荒廃するラストベルト、悲惨な過去を乗り越えようとする若者の葛藤、『行き止まりの世界に生まれて』

2020年9月4日(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

『シチリアーノ 裏切りの美学』|ニューズウィーク日本版のコラム「映画の境界線」記事+おまけのトリビア



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80年代のマフィア戦争から歴史的な大裁判、『シチリアーノ 裏切りの美学』

ニューズウィーク日本版のコラム「映画の境界線」の2020年8月27日更新記事で、実話に基づくマルコ・ベロッキオ監督の『シチリアーノ 裏切りの美学』(19)を取り上げました。

イタリアのパレルモを主な舞台に、1980年から90年代半ばに至るシチリア・マフィア、コーザ・ノストラの激動の時代を、マフィアが守るべきオメルタ(沈黙の掟)を破って司法当局に協力したトンマーゾ・ブシェッタの視点を中心に描いた作品です。

本作は、一連の事件の全体像や歴史的な位置づけを頭に入れておくと、戦後の近代化、労働者階級と中流階級、反マフィア運動、冷戦の終結といったシチリア社会や国際情勢の変化と登場人物たちの変化が密接に結びついていることがわかりより興味深く思えます。

ここからはおまけのトリビア。証言を始めた主人公ブシェッタは、反マフィアの先頭に立つファルコーネ判事に対して、昔の組織には倫理観があったといって、こんなことを語ります。「例えば支部長のフィリッポーネですが、市電に乗り、極貧で死んだんです」。

この支部長については、それだけしか触れられないので記憶に残らないと思いますが、ファブリジオ・カルビの『マフィアの帝国』(JICC出版局、1991年)によれば、ブシェッタは30年たってもファミリーの見習い時代を思い出し、当時のボスのことを考えると感情が揺れ動くのを抑えられなくなったといいます。そのボス、フィリッポーネがどんな人物だったのかについては、以下のように綴られています。

「ぜいたくな暮らしは、がんこにこばみとおした人物だった。彼ほどの立場になれば、運転手付きの自家用車の一台ぐらいはもって、ボディーガードの数人も連れて出歩くのがふつうなのに、もう七十歳という高齢にもかかわらず、あいかわらず市営バスに乗ってパレルモの町を走りまわっていた」

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80年代のマフィア戦争から歴史的な大裁判、『シチリアーノ 裏切りの美学』

2020年8月28日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開

東ドイツから気球で逃亡を図った家族の実話を映画化した『バルーン 奇蹟の脱出飛行』の劇場用パンフレットに寄稿しています



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物語の鍵は、親から子への眼差し

東西冷戦時代の旧東ドイツ。1979年に、自家製の熱気球に乗って西ドイツへの逃亡を図ったのは、ごく平凡なふたつの家族で、総勢8名のメンバーの半分は幼児を含む子供だった。

そんな実話を映画化したミヒャエル・ブリー・ヘルビヒ監督の『バルーン 奇蹟の脱出飛行』(18)の劇場用パンフレットに、「物語の鍵は、親から子への眼差し」というタイトルでレビューを書いています。さり気なく伏線をちりばめ、緻密に構成された本作の導入部は要注目です。サスペンスやアクションだけでなく、前後の繋がりなどから主人公たちの複雑な心の動きを想像させるヘルビヒ監督の巧みな演出が光ります。

2020年7月10日(金)TOHOシネマズ シャンテ他、全国ロードショー!

スサンネ・ビア 『真夜中のゆりかご』 レビュー



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緻密で巧妙なビア監督の話術とミステリーの融合

筆者ホームページ“crisscross”の方に、スサンネ・ビア監督の『真夜中のゆりかご』(14)のレビューをアップしました。脚本は、ビアとアナス・トーマス・イェンセンという不動のコンビ。キャストは、ニコライ・コスター=ワルドー、マリア・ボネヴィー、ウルリッヒ・トムセン、ニコライ・リー・コス、リッケ・メイ・アンデルセンという顔ぶれです。

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スサンネ・ビア 『真夜中のゆりかご』 レビュー

アンドレイ・ズビャギンツェフ 『裁かれるは善人のみ』 記事

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ロシアの苛烈な現実を描き、さらに神話の域へと掘り下げる映画

ニューズウィーク日本版のコラム「映画の境界線」の第7回(10月16日更新)で、ロシアの異才アンドレイ・ズビャギンツェフ監督の『裁かれるは善人のみ』(14)を取り上げました。『父、帰る』(03)、『ヴェラの祈り』(07)、『エレナの惑い』(11)につづく4作目の長編になります。

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ロシアの苛烈な現実を描き、さらに神話の域へと掘り下げる映画|『裁かれるは善人のみ』