フランソワ・オゾン 『しあわせの雨傘』 レビュー
女性の内なる欲望や抑圧を描き続けるフランソワ・オゾンの妙技
フランソワ・オゾンの作品では女優が特別な輝きを放っている。この監督は女優から豊かな個性を引き出してみせるが、そのことと彼が追求しつづけるテーマには深い結びつきがある。彼は女性の内に潜む欲望や抑圧や葛藤を、独自の視点で描き出そうとする。オゾン作品に登場するヒロインたちは、しばしば予期せぬ出来事に見舞われ、混乱する状況に対処することを余儀なくされる。
『まぼろし』(01)では、長年連れ添った夫が浜辺から忽然と姿を消してしまう。残された妻の心は、夫と過ごす日常という幻想と耐えがたい現実の狭間で揺れていく。アガサ・クリスティの世界とミュージカルを組み合わせたような『8人の女たち』(02)では、雪に閉ざされた屋敷で主人が何者かに殺害され、女ばかりの家族やメイドの秘密が次々に暴き出されていく。
『スイミング・プール』(03)では、愛人でもある出版社社長の別荘で過ごす女性作家の前に、編集者の娘と称する謎の少女が現われる。この女性作家は、現実と幻想が入り交じる世界のなかで、愛人との半端な関係を清算し、スランプを克服して新たな境地を切り拓いていく。