大場正明『サバービアの憂鬱』復刊決定のお知らせ 3月10日発売予定



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『サバービアの憂鬱』の復刊が決定しました。角川新書の1冊になり、3月10日発売予定です。副題が「アメリカン・ファミリーの光と影」から「『郊外』の誕生とその爆発的発展の過程」にかわり、加筆修正しています。

本書を執筆したときには、どう構成するかにとても苦労しました。手本になるような文献があまりなく、ゼロから組み立てなければならなかったということもありますが、逆にいえば、枠組みに縛られることなく大胆なこともできるように思え、サバービア(郊外住宅地)をめぐる現実とフィクションを往復するように多様な視点を盛り込み、結びつけていく作業にかなり時間を費やし、納得のいく構成にはなったものの、文章を整える時間があまりなく、勢いでまとめてしまったところがありました。

本書が絶版になったあと、本文テキストをWEBで公開するときに、ある程度、加筆修正をしましたが、やはり復刊のために、本のかたちを思い描きながら、ゲラに赤を入れていく作業は全然違いますので、今回は細かいところまでいろいろ加筆修正しました。本書で取り上げた小説で、出版後に翻訳が出たものについては、引用を差し替えるなどアップデートしました。新書版あとがきでは、本書出版後に公開されたサバービア映画から、本書の内容とつながりのあるものをピックアップし、出版以後についてもいくらかフォローしました。

ずいぶん遠回りしましたが、構成と文章がそろい、やっと本が完成した、という気がしています。

速水健朗氏からいただいたオビの推薦コメント、胸にきました。この新書版は560ページで、新書としてはかなりのボリュームになります。

Amazonで旧版の古書を調べると、出品された16冊中15冊が1万2千円以上で最高が2万5千円になっているようです。筆者がよく利用する横浜市立の図書館には少なくとも2冊置かれていたはずなのですが、検索しても1冊もヒットしなくなりました。復刊によってレア本から普通に手に入れられる本に戻るのがとても嬉しいです。

どんな本なのかもう少し詳しくお知りになりたい方は、HPでサンプルとして序章と第1章のテキストの公開を継続していますので、目を通してみてください。但し、新書版は加筆修正していますので、まったく同じではないことをご了承ください。

『サバービアの憂鬱』イントロダクション

ウォルター・サレス 『オン・ザ・ロード』 レビュー

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「彼」の内面が浮き彫りにされた映画『オン・ザ・ロード』の世界

ウォルター・サレス監督の『オン・ザ・ロード』は、1947年のニューヨークから始まる。1947年とは、アメリカの外交政策立案者だったジョージ・F・ケナンの論文「ソ連の行動の源泉」が発表され、冷戦における封じ込め政策が形作られる時期にあたる。その政策によってアメリカに全体主義的な風潮が広がり、家族や個人にも大きな影響を及ぼした。

ステファニー・クーンツの『家族という神話』では、それが以下のように表現されている。

冷戦下の心理的不安感が、家庭生活におけるセクシュアリティの強化や商業主義社会に対する不安と混じり合った結果、ある専門家がジョージ・F・ケナンの対ソ封じ込め政策の家庭版と呼ぶ状況を生み出したのである。絶えず警戒を怠らない母親たちと「ノーマルな」家庭とが、国家転覆を企む者への防衛の「最前線」ということになり、反共主義者たちは、ノーマルではない家庭や性行動を国家反逆を目的とした犯罪とみなした。FBIやその他の政府機関が、破壊活動分子の調査という名目で、前例のない国家による個人のプライバシーの侵害を行った

この映画にも、反共主義者がテレビを通してプロパガンダを行っている様子が描かれている。もちろんそれは主人公たちとも無関係ではない。なぜなら、「ノーマルでない家庭や性行動」は、共産主義者と同様の反逆とみなされていたからだ。あるいは、そこまで疎外されていたからこそ、自由を求める彼らの感性はいっそう研ぎ澄まされ、ビート文学が誕生したともいえる。

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『オン・ザ・ロード』 映画.com レビュー & 劇場用パンフレット

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小説の主人公サルを通してケルアックの複雑な内面に迫る

8月30日(金)より公開になるウォルター・サレス監督の新作『オン・ザ・ロード』に関する告知です。原作はビート文学を代表するジャック・ケルアックの『路上/オン・ザ・ロード』です。

「映画.com」の8月27日更新の映画評枠に、“父親とフロンティアの喪失によってもたらされた作家ケルアックの覚醒の瞬間” というタイトルのレビューを、さらに劇場用パンフレットに “「彼」の内面が浮き彫りにされた、映画『オン・ザ・ロード』の世界” というタイトルのレビューを書いています。

映画.comのレビューは、フランス語を母語として育ったケルアックとポルトガル語を母語とするサレス監督を意識した内容になっています。先に本ブログの『オン・ザ・ロード』試写室日記をお読みになると、よりわかりやすいかと思います。

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『オン・ザ・ロード』 『コン・ティキ』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『オン・ザ・ロード』 ウォルター・サレス

『セントラル・ステーション』『ビハインド・ザ・サン』『モーターサイクル・ダイアリーズ』のウォルター・サレス監督が、ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』を映画化した。

その導入部はひとつのポイントになる。映画は、サルの父親の死のエピソードから始まる。『オン・ザ・ロード』の1957年刊行版は妻との離婚から始まる。父親の死から始まるのは、ケルアック自身が手を加える前のオリジナル版(『スクロール版オン・ザ・ロード』として刊行されている)だ。

サレスはオリジナル版のほうにだいぶインスパイアされているように見える。それが父親へのこだわりに表れている。

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ポール・トーマス・アンダーソン 『ザ・マスター』 レビュー

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アメリカ50年代における組織と個人の相克を浮き彫りにする

ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ザ・マスター』では、50年代のアメリカを背景にランカスター・ドッドとフレディ・クエルというふたりの人物の関係が描き出される。彼らが生きる50年代とはどんな世界だったのか。デイヴィッド・ハルバースタムの『ザ・フィフティーズ』の目次が物語るように、この時代は様々な側面を持っているが、それらを突き詰めれば「組織」と「個人」に集約することができるだろう。

たとえば、ウィリアム・H・ホワイトの『組織のなかの人間』では、彼が〝オーガニゼーション・マン〟と呼ぶ人々の価値観を通して50年代の社会の変化が浮き彫りにされている。オーガニゼーション・マンとは「組織の生活に忠誠を誓って、精神的にも肉体的にも、家郷を見捨てたわが中産階級の人々」だ。

戦後の経済的な発展によって中流層が膨張すると同時に、企業が全国レベルで組織化されていく。そこでアメリカ社会は、家庭の結びつきや地域社会の縁故よりも学歴がものをいう世界へと変化し、組織に順応するホワイトカラーが増大する。彼らは故郷を捨て、組織に命じられるままに積極的に移動していく。

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