『ヘッドショット』 『アルバート・ノッブス』 『運命の死化粧師』 試写
22日から始まるTIFF(東京国際映画祭)の上映作品を3本。
『ヘッドショット』 ペンエーグ・ラッタナルアーン
『地球で最後のふたり』や『インビジブル・ウェーブ』のラッタナルアーン監督作品。主人公の過去と現在、記憶と真実が複雑に入り組むノワール。
タイ・バンコクのヒットマン、トゥルは任務遂行中に頭を撃たれる。昏睡状態から目覚めた彼には世界が逆さまに見える。逆さまなのは世界なのか彼なのか。
ラッタナルアーンは、様々にスタイルを変えながら「因果応報」や「贖罪」というテーマを掘り下げてきたが、それは確かにこの作品にも引き継がれている。独自のハードボイルドな美学が際立っている。
リサ・チョロデンコ 『キッズ・オールライト』 レビュー
“普通の家族”は幻想だ
■■ある静かな革命的行為■■
アメリカの作家デイヴィッド・レーヴィットの『愛されるよりなお深く』には、ダニーとウォルターというゲイのカップルが登場する。彼らは都会ではなく、ニュージャージーの郊外住宅地に暮らしている。
ウォルターが郊外を選んだ理由はこのように表現されている。「彼は、ある静かな革命的行為に出る決心をした――生まれ持った性的嗜好を郊外の家庭生活のなかに織り込む。都会の土壌に根づいた同性愛の種を掘り出し、緑の庭の健全なる大地に植え変える」
一方、ダニーは家庭についてこのように語っている。「七〇年代に離婚家庭や不幸な家庭に育った子供たちは、大人になると、自分には縁のなかった、だが子供心にずっと渇望してきた堅実な家庭を改めてつくろうとする。これは世代の特徴だよ、とダニーは言う」
この小説が出版されたのは89年のことであり、いまではゲイのカップルが都会から郊外に移り、二人で堅実な家庭を作ろうとするだけでは「静かな革命的行為」とはいえないだろう。
それでは、リサ・チョロデンコ監督の『キッズ・オールライト』に登場するレズビアンのカップルの場合はどうか。ニックとジュールスは都会ではなく、南カリフォルニアの郊外住宅地に暮らしている。彼女たちは精子バンクを利用してそれぞれに子供を出産した。ドナーは同一人物で、ニックが産んだ娘ジョニは18歳、ジュールスが産んだ息子レイザーは15歳になっている。この映画ではそんな家族を主人公にして、ジョニが大学進学のために家を離れるまでのひと夏のドラマが描かれる。