ユン・ジョンビン 『群盗』 レビュー
独自の視点で現代社会を掘り下げる異才ユン・ジョンビン
筆者ホームページ“crisscross”の方に、ユン・ジョンビン監督の『群盗』のレビューをアップしました。劇場用パンフレットに書いたものです。ハ・ジョンウ、カン・ドンウォン主演です。『許されざるもの』、『ビースティ・ボーイズ』、『悪いやつら』という旧作にも言及し、ユン・ジョンビン監督論にもなっています。レビューをお読みになりたい方は以下リンクからどうぞ。
ジャン=マルク・ヴァレ 『カフェ・ド・フロール』 レビュー
ケベック映画の監督としての新たな挑戦
時空を超えた家族の対立と和解の物語
筆者ホームページ“crisscross”の方に、ジャン=マルク・ヴァレ監督の『カフェ・ド・フロール』のレビューをアップしました。劇場用パンフレットに書いたものです。ヴァネッサ・パラディが主演しています。レビューをお読みになりたい方は、以下のリンクからどうぞ。
● ジャン=マルク・ヴァレ 『カフェ・ド・フロール』 レビュー
ヴァレの作品は、ケベックに深く根ざした作品と国外で撮った作品に大きく分けることができますが、これは前者に属する作品で、ケベック映画としての前作にあたる『C.R.A.Z.Y.』のレビューを先に読まれると、よりわかりやすいかもしれません。
ジョシュア・オッペンハイマー・インタビュー 『アクト・オブ・キリング』:世界を私たちと彼ら、善人と怪物に分けるのではなく
アンワル・コンゴとの出会い
60年代のインドネシアで共産主義を排除するために行われた100万人規模といわれるジェノサイド。世界に衝撃を与えたジョシュア・オッペンハイマー監督の『アクト・オブ・キリング』は、この悲劇が過去のものではないことを私たちに思い知らせる。北スマトラで取材を進めていたオッペンハイマーは、虐殺の実行者たちがいまも大手を振って町を闊歩し、過去の殺人を誇らしげに語るのを目にし、自分たちで好きなように殺人を再現し、映画にすることを提案した。
もちろんこれは加害者であれば誰にでも通用するアイデアではない。映画作りの先頭に立つアンワル・コンゴは、映画館を根城にする“プレマン”と呼ばれるギャングだった。アメリカ文化に強い影響を受けている彼とその取り巻きは、映画スター気取りで殺人者を演じ、虐殺を再現していく。この映画で重要な位置を占めるのはそんなアンワルの存在だが、オッペンハイマーが彼に出会うまでには紆余曲折がある。
「私が最初にインドネシアに行ったのは、プランテーションの労働者たちが映画を作るのを手伝うためでした。その『The Globalization Tapes』(03)を作っているときに、労働者たちが65年のジェノサイドの生存者であることを知りました。ベルギーの企業のために働く彼らは、防護服もないまま有害な除草剤を散布し、その毒性で肝臓をやられ40代で亡くなった人もいました。企業が扱っているのは、私たちの身の周りにある化粧品などに使われるパーム油です。そして労働者が組合や署名などで抵抗しようとすると、『アクト・オブ・キリング』に登場する準軍事組織、パンチャシラ青年団が企業に雇われ、彼らを脅迫や暴行で黙らせるのです。彼らは、両親や祖父母が組合員だったというだけで共産党の支持者とみなされパンチャシラ青年団に虐殺されているので、そういう脅迫により恐怖を感じるのです。私は、西欧や日本の日々の生活というものが、いかに他人の苦しみの上に築かれているのかを実感しました」
ジャン=マルク・ヴァレ 『ダラス・バイヤーズクラブ』 レビュー
伝統的なカウボーイ文化から排除され、カウボーイに還る
実話に基づくジャン=マルク・ヴァレ監督の『ダラス・バイヤーズクラブ』の主人公は、80年代半ばのテキサスで電気技師として働きながら、ロデオと酒と女に明け暮れるカウボーイ、ロン・ウッドルーフだ。ある日、自分のトレーラーハウスで意識を失い、医師からHIV陽性、余命30日と宣告された彼は、動揺しつつもエイズの情報をかき集める。
ランディ・シルツの大著『そしてエイズは蔓延した』に書かれているように、当時のアメリカで何らかの治験薬を投与されていたエイズ患者は1割にも満たず、薬剤の入念な試験が終わるのを待つ間に力尽きる患者が跡を絶たない状況だった。
そこでこの主人公は、メキシコに行って国外で流通する治療薬を仕入れ、自分で使うだけでなく、商売も始める。直接、薬を売買するのはまずいので、会費を募り、必要な薬を無料で配布するというシステムを作る。それが“ダラス・バイヤーズクラブ”だ。