今週末公開オススメ映画リスト2012/03/01+α

週刊オススメ映画リスト

今回は『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』、『戦火の馬』、『ピナ・バウシュ 夢の教室』、『父の初七日』、『プリピャチ』(順不同)の5本です。

おまけとして『アリラン』のコメントをつけました。

『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』 ヴェルナー・ヘルツォーク

1994年南仏で発見されたショーヴェ洞窟、その奥には3万2千年前の洞窟壁画が広がっていた。フランス政府は貴重な遺跡を守るため、研究者や学者のみに入場を許諾してきた。ここに初めてヘツルォーク率いるスタッフが入り、3Dカメラによる撮影を敢行した。(プレスより)

野生の牛、馬、サイ、ライオン、あるいはフクロウ、ハイエナ、ヒョウなど、その豊かな表現力には息を呑む。「CDジャーナル」2012年3月号にこの作品のレビューを書いておりますので、ぜひお読みください。で、そのレビューを補うようなことをこちらに。

この映画から浮かび上がる世界は、『グリズリーマン』(05)や『Encounters at the End of the World(世界の果ての出会い)』(07)といったヘルツォークの近作ドキュメンタリーを踏まえてみるとさらに興味深いものになる。

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ナ・ホンジン 『哀しき獣』 レビュー



Review

社会的な視点と壮絶なアクションが根源的な痛みを炙り出す

ナ・ホンジンの『哀しき獣』では前作『チェイサー』以上に壮絶な死闘が繰り広げられるが、その世界に入り込むためには、中国の朝鮮族のことを少し頭に入れておくべきだろう。この物語には、中国にあって北朝鮮、ロシアと国境を接する延辺朝鮮族自治州と韓国の関係が反映されている。

中国朝鮮族と韓国は、1992年に中国と韓国の間で国交が結ばれたことをきっかけに経済的に急接近する。そして韓国との交易が延辺地区を潤すかに思われた。だが、韓国資本への一方的な依存は、アジア金融危機による打撃、あるいは差別や詐欺などの被害を生み出すことにもなった。それが『哀しき獣』の背景だ。

物語は延辺朝鮮族自治区・延吉から始まる。タクシー運転手のグナムは、韓国に出稼ぎに行った妻からの音信が途絶え、借金で首が回らなくなっている。そんな彼に、延吉を仕切る犬商人ミョンが、韓国に行って人を殺す仕事を持ちかける。グナムは、妻に会えるかもしれないと思い、それを引き受けてしまうが、黄海(映画の原題)の向こうには予想もしない悪夢が待ち受けている。

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『アリラン』 『SHAME―シェイム―』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『アリラン』 キム・ギドク

キム・ギドクはなぜ『悲夢』以後、沈黙してしまったのか。その理由はこの『アリラン』で明らかになる。『悲夢』の撮影中に女優が危うく命を落としかける事故が発生した。その事故で衝撃を受けたことをきっかけに、国際的な名声と国内での低い評価のギャップ、彼のもとを去った映画仲間の裏切りなどが重くのしかかり、作品が撮れなくなった。この映画では、そんなギドクが徹底的に自分(第二のギドク、第三のギドク)と向き合う。

ギドクは大好きな監督であり、これまで観た作品のなかでいいと思えなかったのは『悲夢』だけだが、この『アリラン』はしんどかった。ギドクのすごさは、言葉に頼ることなく、外部と内部、見えるものと見えないもの、向こうとこちらといった境界や象徴的な表現を駆使して、独自の空間を構築し、贖罪や浄化、喪失の痛みや解放などを描き出してきたところにある。

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『プレイ』 『最強のふたり』 『デタッチメント』 『哀しき獣』 試写

試写室日記

22日から始まるTIFF(東京国際映画祭)の上映作品を4本。

『プレイ』 リューベン・オストルンド

スウェーデンのリューベン・オストルンド監督が実話にインスパイアされて作り上げた作品。タイトルの『プレイ』が示唆するものは、ミヒャエル・ハネケの『ファニーゲーム(Funny Games)』に呼応しているともいえるし、マチュー・カソヴィッツの『憎しみ』の世界をハネケ的な分析と表現で描いた作品のようでもある。

生理的に拒絶反応を起こすような表現も盛り込まれており、賛否両論あるかと思うが、筆者は引き込まれた。シェルビー・スティールが『黒い憂鬱』で提起しているような問題とも絡む要素がある。

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『Peace ピース』 『おじいさんと草原の小学校』 『ハウスメイド』試写

試写室日記

本日は試写を3本。

『Peace ピース』 想田和弘

“観察映画”という独自のアプローチによってドキュメンタリーの可能性を広げる想田和弘監督。『選挙』(07)、『精神』(08)につづく観察映画第3弾は、平田オリザと青年団を題材にした『演劇(仮題)』のはずだが、そちらは編集中で、先に公開されるこの『Peace』(10)は、「観察映画番外編」という位置づけになっている。

あらためてレビューを書くつもりだが、やはり観察映画は面白い。テーマに縛られず、先入観を排除して、対象にビデオカメラを向ける。この映画では、人間の世界と猫の世界が対等なものとして描かれる。そこには共同体があり、決して楽とはいえない生の営みや老いがある。

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