アク・ロウヒミエス 『4月の涙』 レビュー
フィンランドの悲劇の歴史を環境哲学の視点から読み直す
現在のフィンランド映画界を代表する監督といわれるアク・ロウヒミエス。『4月の涙』(09)の題材になっているのは、同じ国民が敵味方となって戦ったフィンランド内戦だ。内戦末期の1918年、白衛隊の准士官アーロと捕虜となった赤衛隊の女性兵ミーナが出会い、二人の間で愛と信念がせめぎ合う。
そんな設定から筆者はありがちな男女の悲劇を想像していたのだが、実際に作品を観たらまったく違っていて正直驚いた。この映画では、内戦の物語が、「人間中心主義」と人間の位置を自然のなかに据える「環境哲学」という現代的な視点から読み直されている。
白衛隊に捕えられた女性兵たちは、乱暴され、逃亡兵として処刑されていく。アーロは、そんな指令を無視した処刑に抗議し、かろうじて生き延びたミーナを公正な裁判にかけるため、作家で人文主義者のエーミル判事がいる裁判所に護送しようとする。
ミケランジェロ・フランマルティーノ 『四つのいのち』 レビュー
- Jana Winderen, J・ベアード・キャリコット, アニミズム, アピチャッポン・ウィーラセタクン, アモス・オズ, イタリア, ドキュメンタリー, フィールド・レコーディング, ミケランジェロ・フランマルティーノ, レイモン・ドゥパルドン, 動物性, 死, 自然, 風景
ドキュメンタリーとフィクションの境界を超え、独自のアニミズムの世界を切り拓く
イタリア出身の新鋭ミケランジェロ・フランマルティーノが監督した『四つのいのち』(2010)の舞台は、南イタリア・カラブリア州の山岳地帯だ。映画の導入部では、黙々と山羊の世話をする年老いた牧夫の生活が、静謐な映像のなかに描き出される。
だがこの牧夫はタイトルにある“四つのいのち”のひとつに過ぎない。やがて彼は息を引き取り、入れ替わるように仔山羊が誕生する。その仔山羊は群れから逸れ、樅の大木の下で眠りにつく。冬が過ぎて春になると樅の大木が切り倒され、村の祭りのシンボルとなる。そして祭りが終わると、大木は伝統的な手法で炭となる。この映画では、人間、動物、植物、無機物がサークルを形成していく。
『Deadmalls & Nightfalls』 by Frontier Ruckus
閉鎖された巨大モールの記憶、サバービアの風景としての廃墟
茨城の取手を拠点に、「郊外」をテーマにした作品を撮る佐々木友輔監督の『新景カサネガフチ』(10)では、ショッピングセンターや東急ストア取手店の閉店・閉鎖のエピソード、その記憶を通して、人と風景の関係が掘り下げられていた。
ミシガン出身のバンド、Frontier Ruckusの音楽の背景にも“サバービア”がある。彼らが昨年リリースした『Deadmalls & Nightfalls』のジャケットには、ミシガンのWaterford Townshipにあったショッピングモール、Summit Place Mallの写真が使われている。
Summit Place Mallは1963年に誕生し(最初はPontiac Mallと呼ばれていた)、2009年にその長い歴史に幕をおろした。↓これらの映像には、巨大モールの栄枯盛衰を見ることができるだろう。
『coast range arc』 by Loscil
- 2011年07月10日
- Ambient, Electronic, アルバム日記, 音楽
- Loscil, Scott Morgan, イタリア, カナダ, サウンドスケープ, フィールド・レコーディング, 山, 自然, 風景
カナダの険しい山々にインスパイアされたサウンドスケープ
Loscilは、カナダ出身のエレクトロニック・アンビエントの作曲家Scott Morganのプロジェクトだ。彼はすでに5枚を超える作品を発表しているが、この新作『coast range arc』は、ジャケットアートを見ただけでもテーマが異なることがわかる。
これまでの作品はKrankyからのリリースだったが、新作はGlacial Movements。このイタリアのレーベルは、ジャケットアートも統一され、かなり明確なテーマやカラーを持っている。人類が忘れ去ってしまった場所としての氷の世界を呼び覚まし、独自のサウンドスケープを切り拓こうとするアンビエント・レーベルとでもいえばよいか。
loscil – coast range arc (album preview) by experimedia
ひと口に氷の世界といっても、ミュージシャンによって様々なアプローチがあるが、Loscilの場合には、具体的なものや場所からインスピレーションを得る傾向が強い。新作も例外ではない。