マイク・ミルズ 『人生はビギナーズ』 レビュー
50年代と冷戦以後、父と息子の関係から浮かび上がるふたつのサバービア体験
マルチなクリエーターの長編デビュー作といえば、表現は個性的でも底の浅い作品なのではないかと思いたくなるところだが、06年に公開されたマイク・ミルズの『サムサッカー』(05)はそんな先入観を見事に吹き払い、現代のサバービアにおける個人の在り様を実に巧みにとらえていた。
そして、ミルズのプライベートストーリーを映画化した新作『人生はビギナーズ』はさらに素晴らしい。彼の父親は、45年連れ添った妻に先立たれたあと、75歳にして同性愛者として残りの人生を楽しみたいとカミングアウトし、その言葉を実行し、告白から5年後に他界したという。
この映画では、ミルズの分身オリヴァーとカミングアウトした父親ハルとの関係、かつての両親の生活や自分という存在を見つめなおすオリヴァーの回想、父親を癌で亡くした喪失感に苛まれる彼と風変わりな女性アナとの出会いという三つの流れが、時間軸を自在に操ることで絶妙に絡み合っていく。