風間志織 『チョコリエッタ』 レビュー



News

知世子とチョコリエッタをめぐる冒険

筆者ホームページ“crisscross”の方に、風間志織監督の『チョコリエッタ』(14)のレビューをアップしました。すでにレビュー01として短めのレビューをアップしていますが、今回は劇場用パンフレットに寄稿した少し長めのレビューです。

レビューをお読みになりたい方は以下のリンクからどうぞ。

風間志織 『チョコリエッタ』 レビュー02

パヴェウ・パヴリコフスキ 『イーダ』 レビュー

Review

“アンナ”が“イーダ”になるためのイニシエーション

パヴェウ・パヴリコフスキの新作『イーダ』は、1957年にワルシャワで生まれ、14歳の時に共産主義のポーランドを離れたこの監督が、初めて祖国で作り上げた作品だ。

物語の背景は1962年のポーランド。戦争孤児として修道院で育てられ、修道女になる準備をしていた18歳のアンナは、院長から叔母のヴァンダが存命していることを知らされる。検察官でありながら、酒に溺れる乱れた生活を送るヴァンダは、唯一の親類を訪ねてきたアンナに、彼女がユダヤ人で、本名はイーダ・レベンシュタインであることを打ち明ける。そして二人はそれが宿命であったかのように、歴史の闇に分け入り、家族の死の真相に迫っていく。

陰影に富むモノクロ、スタンダード・サイズの映像、徹底的に削ぎ落とされた台詞や構成、ホロコーストや共産主義をめぐる歴史の闇、アンジェイ・ワイダを筆頭とする“ポーランド派”やポーランド・ジャズの黄金時代へのオマージュ。この映画は、これまでのパヴリコフスキ作品とはまったく違うように見えるが、実はしっかりと繋がっている。

続きを読む

ジョエル&イーサン・コーエン 『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』 レビュー

Review

名もなきシンガーと入れ替わる猫と死者の気配をめぐる一週間の物語

1961年のニューヨーク、グリニッジ・ヴィレッジを舞台にした『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』は、コーエン兄弟が、伝説のフォーク・シンガー、デイヴ・ヴァン・ロンクの回想録にインスパイアされて作り上げた作品だ。主人公はフォーク・シンガーのルーウィン・デイヴィスで、映画のタイトルもアルバム『インサイド・デイヴ・ヴァン・ロンク』を意識したものになっているが、だからといってヴァン・ロンクの世界に迫ろうとしているわけではないし、当時の音楽シーンを再現しようとするわけでもない。

ルーウィンの物語は、情けないエピソードの羅列に見える。出したレコードは売れない。金も住む場所もないため、知人の家を泊まり歩くしかない。さらに宿を借りるだけではなく、手を出してしまった女友達からは妊娠を告げられる。だが、そんなルーウィンの世界が次第にじわじわと心にしみてくる。情けないエピソードの羅列のなかに、彼が心の奥に秘めている感情が見え隠れするからだ。

続きを読む

アントニオ・チャバリアス 『フリア よみがえり少女』 レビュー



Review

喪失感が罪悪感につながり、喪失感が罪悪感をよみがえらせる

38歳のダニエルと34歳のラウラの夫婦は、ともに同じ小学校に勤める教師で、子宝に恵まれないことに悩んでいる。そんなある日、マリオという男が学校にダニエルを訪ねてくる。彼はダニエルが子供の頃に親しかった友人だが、その後は疎遠になっていた。なにかに怯えるマリオは自分の娘のフリアに会ってほしいと懇願するが、意味がわからないダニエルは病院に行くことを勧め、突き放してしまう。

それから間もなく夫婦は、マリオが自殺したことを知る。マリオの葬儀に参列した彼らは、故人の娘フリアが養護施設に入れられていることを知り、一時的に預かることにする。だが、以前からダニエルを知っているかのようなフリアの発言や態度が、彼にある少女のことを思い出させ、精神的に追い詰めていく。

ダニエルが封印した忌まわしい過去は、そんなドラマと並行してフラッシュバックによって徐々に明らかにされていく。その夏、ダニエル少年は、父親が再婚を考えていたルイサと彼女のふたりの子供マリオとクララと一緒に過ごすことになる。だが数日後、ダニエルやマリオと一緒だったはずのクララが、墓地で遺体となって発見され、再婚は白紙となった。

続きを読む

『パパの木』 『チャイルドコール 呼声』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『パパの木』 ジュリー・ベルトゥチェリ

長編劇映画デビュー作『やさしい嘘』(03)で注目を浴びたフランス出身の女性監督ジュリー・ベルトゥチェリの新作。どちらも愛する者の死を残された家族がどのように受け入れていくのかを描いていることになる。

オーストラリアの辺境に暮らす主人公一家は突然、大黒柱を喪うが、まだ幼い末娘のシモーンは、庭の巨木に父親がいると信じ、その思いが次第に家族に伝わっていく。

特殊効果を使うようなスーパーナチュラルな表現は一切やらず、すべてが自然との繋がりで描かれる。その自然がなかなか凄い。夜に窓を開けていると、突然なにかが飛び込んできて、部屋を舞う。それは巨大なコウモリなのだが、そんな野生の生き物に当たり前に取り巻かれた世界に引き込まれる。

一家は巨木に象徴される自然を通して、彼らにとって最も大切なものに目覚めていく。ジュディ・パスコーの『パパの木』という原作があるためかどうか定かではないが、安易に神秘性に頼ってしまうでもなく、感傷に流されるでもなく、母親が最後に口にする台詞に集約されるように、筋が一本通っていて実にいい映画である。詳しいことはまたレビューで書きたい。

続きを読む