『ブランカニエベス』 劇場用パンフレット

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映像と音楽と題材が三位一体となった貴種流離譚

2013年12月7日(土)より新宿武蔵野館ほかで全国公開になるパブロ・ベルヘル監督のスペイン映画『ブランカニエベス』(12)の劇場用パンフレットに、上記のようなタイトルでコラムを書いています。世界各国で注目を集め、数々の賞に輝いているモノクロ&サイレント映画です。以下、プレスから一部を引用。

第37回トロント国際映画祭でのプレミア上映を皮切りに、数多の国際映画祭に出品され、瞬く間に世界の注目をさらった本作。“スペイン版アカデミー賞”と呼ばれる第27回ゴヤ賞では最優秀作品賞をはじめとする18部門にノミネートされ、他の追随を許さぬ圧倒的な強さで最多10部門を制覇。第60回サン・セバスチャン国際映画祭では審査員特別賞・最優秀女優賞のW受賞を果たしたほか、第85回アカデミー賞においては外国語映画賞のスペイン代表作に選出されるなど、その熱狂ぶりは、世界の主要映画賞50部門以上受賞という確固たる栄冠に裏付けられている。

新しいモノクロ&サイレント映画といえば、ミシェル・アザナヴィシウス監督の『アーティスト』(11)が思い出されます。どちらの映画も、サイレントを単純に現代に甦らせただけの作品ではありませんし、それぞれに独自のアプローチが際立ち、新鮮な魅力を放っています。

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『いとしきエブリデイ』 劇場用パンフレット

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感情と距離の間にあるマイケル・ナイマンの音楽

2013年11月9日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町にてロードショーになるマイケル・ウィンターボトム監督の新作『いとしきエブリデイ』(12)の劇場用パンフレットに、上記のようなタイトルでコラムを書いています。

映画に登場する幼い子供たちは、実の4兄妹。ウィンターボトムは、プロの俳優とその子供たちから成る家族の日常を、5年の歳月を費やして撮影してこの作品を作り上げました。様々なかたちでフィクションとドキュメンタリーの狭間にリアルを求めつづけるウィンターボトムならではのアプローチだと思います。

ウィンターボトムはこの新作を、99年の『ひかりのまち』と対を成す作品と位置づけています。それはキャストやスタッフにも表れています。『いとしきエブリデイ』では、『ひかりのまち』で長女のデビーに扮したシャーリー・ヘンダーソンと三女モリーの夫エディに扮したジョン・シムが、カレンとイアンという夫婦を演じています。そしてどちらもマイケル・ナイマンが音楽を担当しています。

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トーマス・イムバッハ 『終わりゆく一日』 特別寄稿



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時の流れと喪失を鮮やかに浮き彫りにする普遍的な物語

2013年10月26日(土)よりユーロスペースほかで全国順次公開になるトーマス・イムバッハ監督のスイス映画『終わりゆく一日』のプレス用に上記のタイトルのレビューを寄稿しています。

この映画の世界は、ユニークな素材の組み合わせで構築されています。まず、チューリッヒにあるイムバッハの仕事部屋から見える風景の映像です。彼は窓の外に広がる見事なパノラマに魅了され、15年以上に渡って撮り続けてきました。その映像には、郊外にそびえる巨大な煙突ともくもくと立ち上る煙、青空と様々に形を変えていく雲、飛び立つ旅客機、駅を行き来する列車、そして変貌を遂げていく目の前の工場地帯などが記録されています。

次に、留守番電話に残されたメッセージです。まだ新しかったこの装置に夢中になった彼は、メッセージを消去せずに収集してきました。そこには、父親の死や息子の誕生、家庭の崩壊などにまつわる言葉が刻み込まれています。

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ミシェル・ゴンドリー 『ムード・インディゴ~うたかたの日々~』 レビュー

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ヴィアンの『うたかたの日々』のイマジネーションと残酷さをめぐって

『ウィ・アンド・アイ』につづくミシェル・ゴンドリーの新作は、夭逝の作家ボリス・ヴィアンの悲痛な恋愛小説『うたかたの日々』の映画化だ。プレスのインタビューでゴンドリーは、原作を最初に読んだ時期について、「10代の頃だね。兄が最初に読んで、僕たち弟に薦めたんだ。間違いなく兄は『墓に唾をかけろ』とか、ボリス・ヴィアンがヴァーノン・サリバン名義で書いた、もっとエロティックな小説から読み始めたはずだね」と語っている。その昔、筆者もヴァーノン・サリバン名義のものから読み出したような気がする。

『ムード・インディゴ~うたかたの日々~』の舞台はパリで、時代背景は曖昧にされている。それなりの財産に恵まれ、働かなくても食べていける若者コランは、パーティで出会った美しいクロエと恋に落ちる。ふたりは、友人たちに祝福され盛大な結婚式を挙げるが、やがてクロエが、肺のなかに睡蓮が生長する奇妙な病におかされていることがわかる。その治療のために財産を使い果たしたコランは、働きだすが、彼らの世界は徐々に光と精気を失い、荒廃していく。

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ジャック・オディアール 『君と歩く世界』 レビュー

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暴力と苦痛のなかで生を実感する男 ――アリと歩く――

たとえば、両脚を失ったシャチの調教師が、ある出会いをきっかけに再び力強く歩み出す物語といわれたら、どんな作品を想像するだろうか。お涙頂戴の映画だと思う人は少なくないはずだ。しかし、ジャック・オディアール監督の『君と歩く世界』は、いい意味で私たちの予想を裏切ってみせる。それは、アリという人物の存在によるところが大きい。

私たちは、そのアリがステファニーをクラブから自宅まで送るところで、彼がどこか普通とは違っていることに気づく。彼は腫れた手を氷で冷やすために家に上がりたいという。そこで、彼がいるからといわれてしまえば、普通は外で待つしかないだろう。ところがアリは、「だから?」と問い返す。家に上がっても、他人の視線など気にもとめない。そんな違いがステファニーの記憶に残らなければ、ふたりの関係が発展することもなかっただろう。

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