パオ・チョニン・ドルジ監督 『ブータン 山の教室』 レビュー

Review

光を感じるために、影を知る。

パオ・チョニン・ドルジ監督のデビュー作『ブータン 山の教室』の主人公ウゲンは、“Gross National Happiness BHUTAN(国民総幸福 ブータン)”とプリントされたTシャツを着ている。ドラマの終盤では、ルナナ村の村長が、「この国は世界で一番幸せな国と言われているそうです。それなのに、先生のように国の未来を担う人が幸せを求めて外国に行くんですね」と語る。

そこから本作の大まかなテーマが見えてくる。経済的な豊かさだけでなく、精神的な豊かさも考慮したGNHを目標に掲げるブータンは、実際には伝統文化と急速に押し寄せる近代化・都市化の波にどう折り合いをつけていくのかという難題に直面している。

では、ドルジ監督はそんなブータンでどんな立ち位置をとり、なぜ舞台にルナナ村を選び、どんな意図でウゲンというキャラクターを作ったのか。ドルジは写真家であり、アジアを中心に各地を旅する放浪者であり、旅で見出した物語を伝える語り部でもある。そんな彼の豊かな体験や世界観は、とてもシンプルに見える本作の物語にも様々なかたちで反映されている。

続きを読む

『ハニーランド 永遠の谷』|ニューズウィーク日本版のコラム「映画の境界線」記事



News

北マケドニアの自然養蜂家の女性を追うドキュメンタリー『ハニーランド 永遠の谷』

ニューズウィーク日本版のコラム「映画の境界線」の2020年6月25日更新記事で、北マケドニアで作られたリューボ・ステファノフとタマラ・コテフスカ共同監督のドキュメンタリー『ハニーランド 永遠の谷』(19)を取り上げました。

電気も水道もなく、他の住人も去って廃墟と化した山岳地帯の村で、病気で寝たきりとなった母親と暮らし、代々受け継がれてきた自然養蜂を営む女性ハティツェ。そこに現われる遊牧民の一家。筋書きのないドラマというドキュメンタリーの醍醐味、監督コンビのアプローチが切り拓くリアリズムとは異質な空間。想像力をかきたてるドキュメンタリーです。

コラムをお読みになりたい方は以下のリンクからどうぞ。

北マケドニアの自然養蜂家の女性を追うドキュメンタリー『ハニーランド 永遠の谷』

2020年6月26日(金)アップリンク渋谷・アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

実在の奴隷解放運動家を描いた『ハリエット』の劇場用パンフレットに寄稿しています

News

ハリエットが聞いた神の声とアフリカ文化

19世紀半ばに奴隷州から自由州への逃亡を果たし、秘密結社“地下鉄道”の車掌となって奴隷解放運動家として頭角を現すハリエット・タブマン。彼女の自由への渇望、変容と覚醒を描くケイシー・レモンズ監督の『ハリエット』(19)の劇場用パンフレットに、「ハリエットが聞いた神の声とアフリカ文化」というタイトルでレビューを書いています。

本作では、窮地に陥ったハリエットが発揮する不思議な能力に戸惑いを覚える人もいるかもしれませんが、そのことについては様々な証言が残されています。そして、彼女の深く強い信仰心やニグロ・スピリチュアルが果たす役割とアフリカの口承文化や超自然的な力の信仰を結びつけてみると、その能力がとても興味深く思えてきます。

2020年6月5日(金)TOHOシネマズシャンテ他、全国ロードショー。

アンドレイ・ズビャギンツェフ 『裁かれるは善人のみ』 記事

News

ロシアの苛烈な現実を描き、さらに神話の域へと掘り下げる映画

ニューズウィーク日本版のコラム「映画の境界線」の第7回(10月16日更新)で、ロシアの異才アンドレイ・ズビャギンツェフ監督の『裁かれるは善人のみ』(14)を取り上げました。『父、帰る』(03)、『ヴェラの祈り』(07)、『エレナの惑い』(11)につづく4作目の長編になります。

コラムをお読みになりたい方は以下のリンクからどうぞ。

ロシアの苛烈な現実を描き、さらに神話の域へと掘り下げる映画|『裁かれるは善人のみ』

『ヴェルサイユの宮廷庭師』 劇場用パンフレット

News

喪失の痛みを持つ者たちの、自然との共鳴

2015年10月10日(土)より全国ロードショーになるイギリス映画『ヴェルサイユの宮廷庭師』の劇場用パンフレットに、上記タイトルでレビューを書いています。『ウィンター・ゲスト』(97)で監督としても評価されたアラン・リックマンが、監督・共同脚本・出演を兼ねた作品です。ヒロインの庭師サビーヌをケイト・ウィンスレットが演じ、『君と歩く世界』(12)のマティアス・スーナールツが共演しています。

劇場で映画をご覧になりましたら、ぜひパンフレットもお読みください。