マリウス・ホルスト 『孤島の王』 レビュー

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銛を3本打っても死なない鯨の物語が世界を呑み込んでいく

マリウス・ホルスト監督のノルウェー映画『孤島の王』は、1915年、不適な面構えをした少年エーリングが、オスロ南方のバストイ島に上陸するところから始まる。外界と隔絶した島には、罪を犯した少年たちを収容する施設があった。

C19という番号を与えられたエーリングは、高圧的な院長と寮長への反抗や島からの脱走を繰り返し、その度に懲罰を課せられる。やがて彼の不屈の魂は、監視役の優等生オーラヴの心を動かし、島の秩序を揺るがしていく。

映画の冒頭には以下のような言葉が浮かび上がる。「バストイ島には1900年から1953年まで非行少年のための矯正施設が存在した。この物語は事実にもとづく」

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『きっと ここが帰る場所』 『ブラック・ブレッド』 『星の旅人たち』 試写

試写室日記

本日は試写を3本。

『きっと ここが帰る場所』 パオロ・ソレンティーノ

注目のイタリア人監督パオロ・ソレンティーノ(『愛の果てへの旅』『イル・ディーヴォ』)がショーン・ペンと組んで作り上げた新作。隠遁生活を送りながらもゴスメイクを欠かさないかつてのロックスター、シャイアン(ショーン・ペン)が、父親の死をきっかけにナチスの戦犯を追いかけるというようなストーリーを書いても、なんのことだかわからないだろうし、この映画の独特の世界は伝わらないだろう。

非常にユニークな感性と緻密な計算によって構築された世界は、どのようなところに反応するかによって印象も変わってくるはずだ。筆者はハル・ハートリーとかウェス・アンダーソンをちょっと連想したりしたが、それよりもここでは音楽のことに触れておきたい。

といっても、デイヴィッド・バーンやトーキング・ヘッズの曲<This Must Be the Place>のことではない。確かに、映画のタイトルもそこからとられ、劇中でもバーンがプレイしているのでこの曲はいちばん目立つ。しかし他にも個人的にやたらと印象に残る音楽が使われているのだ。

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ワン・ビン 『無言歌』 レビュー



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過去を振り返る視点を排除し死者たちの声なき声を拾い上げる

世界の注目を集める中国の鬼才ワン・ビン監督の日本初公開作品『無言歌』は、ドキュメンタリーで才能を開花させた彼にとって初の劇映画となる。その題材は、文革の嵐が吹き荒れる前に起きた「反右派闘争」の悲劇だ。

毛沢東は56年に党批判を歓迎する運動を推進した後、57年に方針を転換し、苛烈な粛清を開始した。そして、党批判や家族の出自によって「右派」とされた者たちは、辺境での過酷な労働、そして激烈な飢餓との闘いを強いられることになった。

この悲劇には、現代中国の政治体制の原点を見ることができるが、ワン監督のアプローチはそんなことを考える余裕を与えない。

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近所の大岡川でちょっとだけお花見を

  • 2012年04月09日
  • 散歩, 花見


トピックス

まだ満開には少し早いですが、きれいでした

昨晩、下書きした原稿を朝起きて仕上げて送り、郵便局に行った帰りに、天気がよかったのでそのまま目の前の大岡川でちょっとだけお花見をしてきた。木によって開花にばらつきがあり、まだ満開とはいかないが、桜の花が青空と川面に映えてきれいだった。もしかすると週末には満開を過ぎてしまうかもしれない。


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ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 『少年と自転車』 レビュー

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必死にしがみつく少年、誘惑の森、そして媒介としての自転車

カンヌ国際映画祭グランプリを受賞したダルデンヌ兄弟の新作『少年と自転車』(11)では、児童養護施設で暮らす少年シリルと美容院を経営するサマンサとの交流が描かれる。

間もなく12歳になるシリルは、彼を施設に預けた父親とまたいっしょに暮らすことを夢見ていたが、団地に戻ってみると父親はなにも告げずに転居していた。そのときサマンサと出会い、親切にされた彼は、週末を彼女の家で過ごすようになる。

シリルはその週末を使って父親を探し当てるが、戸惑う父親から突き放されてしまう。それを目の当たりにしたサマンサは、真剣にシリルの面倒をみるようになる。だが、かつて同じ施設にいた不良少年ウェスが、彼を巧みに丸め込み、利用しようとする。

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