『Wolf Notes』 by AR (Autumn Richardson and Richard Skelton)

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ランカシャーからカンブリアへ―スケルトンの新たな試み=AR

リチャード・スケルトン(Richard Skelton)の『Landings』についてはレビューをアップしたが、彼はその先にどのようなサウンドスケープを切り拓こうとしているのか。どこかのサイトのインタビューでは、A Broken Consort名義の新作を出すと語っていたような気もする。しかし一方では、これまでとは違う試みにも挑戦している。

ARはSkeltonの新たなプロジェクトだ。これはひとりの作業ではなく、ヴォーカリスト、Autumn Richardsonとのコラボレーションである。スケルトンの音楽では場所が重要な意味を持っている。これまでの作品ではその場所は、彼が暮らすランカシャーのWest Pennine Mooreや、家から遠くないところにあり、かつて農民が暮らした家屋の廃墟が残るAnglezarke Mooreだった。

●Type recordsによる『Wolf Notes』Stream
AR – Wolf Notes by _type

しかし、ARの『Wolf Notes』ではランカシャーからさらに北に向かう。カンブリア州にあるUlphaの風景、地名、動植物などにインスパイアされ、この土地へのオマージュになっている。

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『Red Planet』 by Arborea

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メイン州の豊かな自然、媒介としての音楽

『Red Planet』は、Arboreaのニューアルバムだ。Arboreaは、Buck CurranとShanti Curranという夫婦のユニットで、メイン州を拠点に活動している。

たとえば、ニューオーリンズを拠点に活動するグループHurray for the Riff Raffや、このArboreaの音楽には、“メディア”という言葉がかつて持っていた意味を思い出させるような独特の響きを感じる。

加藤秀俊の『メディアの発生――聖と俗をむすぶもの』(中央公論新社、2009年)では、メディアが持っていた意味がこのように説明されている。「その原型になっているのは聖俗をつなぐ「霊媒」のことでもあったのだ。そのような意味での「メディア」は現代の文明世界でもけっして消滅したわけではない

『Red Planet』 (2011)

もちろん、たとえばすでにこのブログで取り上げているJana WinderenやRichard Skeltonの音楽にもそれは当てはまる。にもかかわらず、ここで特にHurray for the Riff RaffとArboreaに注目しようとするのにはわけがある。

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『The Union』 by Hallock Hill

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生まれた場所、アップステイトへのオマージュ

Hallock Hillは、Tom Leckyのペンネームで、そこには彼が生まれたニューヨーク州のアップステイトの田園地帯へのオマージュが込められているという。

アルバム『The Union』は、ギターのループや即興を思わせるメロディなどを重ねて作られた美しいサウンドスケープだ。

Hallock Hillのブログを読むと、彼がRichard Skeltonのファンであることがわかる。その音作りも、ただ自然や場所を意識するだけではなく、風景にまつわる記憶を掘り下げ、隠れた歴史を音で表現しようとしているところが、Skeltonに通じるものがある。

union

The Union (2011)

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『math or magic』 by evan weiss

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“Soundscapes”というインタビュー記事のタイトルにひかれて…

Evan Weissの『math or magic』というアルバムが出ているのは知っていたが、まったくノーマークだった。ところが、all about jazzで“Soundscapes”というタイトルがつけられたWeissのインタビュー記事を見つけて、好奇心がもたげた。

情報をいろいろ頭に詰め込んでから聴くのがいやなので、記事は読まずにまず音を手に入れた。Weissはトランペッター/コンポーザーだが、なるほど面白いことをやっている。

math magic

"math or magic" by Evan Weiss

ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、フルート、バスーン、マリンバなどを含む大編成のアンサンブルを操り、ジャズ、クラシック、ミニマル・ミュージックなどが融合したサウンドスケープを作り上げている。全13曲の構成にも仕掛けがほどこされている。

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『明りを灯す人』 『田中さんはラジオ体操をしない』試写

試写室日記

本日は試写を2本。どちらの作品も電気に関わっていたりする。

『明りを灯す人』 アクタン・アリム・クバト

『あの娘と自転車に乗って』や『旅立ちの汽笛』の監督から届けられた久しぶりの新作だが、監督の名前が以前とは変わっている。かつてはアクタン・アブディカリコフだったが、ロシア名のアブディカリコフを、キルギス名のアリム・クバトに改めたとのこと。

しかもこの『明りを灯す人』では、監督・脚本に加えて、自ら主人公を演じている。映画の舞台は、中央アジア・キルギスの小さな村で、村人たちから親しみを込めて“明り屋さん”と呼ばれている電気工が主人公だ。穏やかだった村に変革の波が押し寄せ、共同体の基盤が揺らいでいく。

これは素晴らしい映画だ。電気工という主人公の設定が生きている。電灯は便利ではあるが、人々を豊かにするとは限らない。これまで同じ闇を共有していた人間と動物は別の世界を生きるようになる。闇に支えられてきた説話の力も失われていく。明り屋さんは、そんな分岐点に立たされている。

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