テレンス・マリック 『トゥ・ザ・ワンダー』 レビュー

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彼女を目覚めさせ、解放するもの

テレンス・マリック監督の『トゥ・ザ・ワンダー』には、愛し合う男女や苦悩する神父の姿が描き出されるが、そんな登場人物を追いかけ、物語を見出すだけでは、おそらく深い感動は得られないだろう。マリックが描いているのは、人間ドラマというよりは、人間を含めた世界の姿だといえる。

しかもその世界は誰の目にも同じように見えるわけではない。この映画には、見えない糸が張り巡らされ、それをどうたぐるかによって感知される世界が変わってくるように思えるからだ。

ではなぜマリックはそんな表現を切り拓くのか。おそらく人間中心主義や比較的新しい哲学である環境倫理学と無関係ではないだろう。環境倫理学の創始者のひとりJ・ベアード・キャリコットはその著書『地球の洞察』の日本語版序文で、このようなことを書いている。

西洋哲学は長年にわたって人間中心主義の立場をとり、「自然は『人間』のための支援体制や共同資源、あるいは人間のドラマが展開する舞台に過ぎなかった」。これに対して環境倫理学者たちは、「人間の位置を自然の中に据えて、道徳的な配慮を人間社会の範囲を越えてひろく生物共同体まで拡大しようとした」。

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『トゥ・ザ・ワンダー』 劇場用パンフレット

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彼女を目覚めさせ、
解放するもの

告知がたいへん遅くなってしまいましたが、8月9日(金)より公開中のテレンス・マリック監督の新作『トゥ・ザ・ワンダー』の劇場用パンフレットに上記タイトルでレビューを書いています。

これまでマリックは作品の時代背景を50年代か、それ以前の時代に設定し、同時代を正面から描くことがありませんでしたが、この新作では現代の世界を描いています。

ただしマリックのことですから、もちろん現代だけを見つめているわけではありません。新作には、前作『ツリー・オブ・ライフ』のような宇宙や生命の起源をめぐる大胆な表現は見られませんが、そんな独自の視点は日常的な世界の細部に引き継がれています。

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ミハル・ボガニム 『故郷よ』 レビュー

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チェルノブイリの悲劇――故郷の喪失や記憶をめぐる複雑な感情を独自の視点から掘り下げる

昨年(2012年)公開されたニコラウス・ゲイハルター監督の『プリピャチ』(99)は、「ゾーン」と呼ばれるチェルノブイリ原発の立入制限区域(30キロ圏内)で生きる人々をとらえたドキュメンタリーだった。“プリピャチ”とは、原発の北3キロに位置する町の名前であり、そこを流れる川の名前でもある。

そのプリピャチを主な舞台にした女性監督ミハル・ボガニムの『故郷よ』は、ゾーンで撮影された初めての劇映画だ。物語は事故当時とその10年後という二つの時間で構成されている。

結婚式を挙げた直後に事故が発生し、消防士の夫を喪ったアーニャは、ゾーンのツアーガイドとなって故郷に留まっている。事故後に原発の技師だった父親が失踪し、別の土地で育った若者ヴァレリーは、故郷に戻って父親を探し回る。その父親は、もはや存在しないプリピャチ駅を目指して列車に揺られ、迷子になったかのように終わりのない旅を続けている。

ボガニム監督は当事者への入念なリサーチを行い、事故当時の模様やその後の生活をリアルに再現している。しかし、彼女が関心を持っているのは必ずしも原発の悲劇だけではない。

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今週末公開オススメ映画リスト2013/02/07

週刊オススメ映画リスト

今回は『故郷よ』『ムーンライズ・キングダム』『命をつなぐバイオリン』の3本です。

『故郷よ』 ミハル・ボガニム

チェルノブイリ原発の立入制限区域(30キロ圏内)で劇映画を撮るというのは、許可を得るのにも煩雑な手続きが必要になるでしょうし、キャストもそれなりの覚悟が必要になると思います。

ミハル・ボガニム監督は、ヒロインにオリガ・キュリレンコを起用したことについて、プレスのインタビューで以下のように語っています。

オリガ・キュリレンコはウクライナ人です。彼女は子供の時に起きた事故のことをとてもよく覚えていました。彼女はまさにアーニャ自身でした。「アーニャは私です」と彼女は言ってくれましたが、始まるまで私はほんの少しそのことを疑っていました。というのは、彼女は美しすぎるからです。それで、私は彼女を起用するより無名の誰かを準備した方がいいと考えオーディションをしましたが、参加してくれたオルガの演技が印象に残りました。その印象をもとに彼女とアーニャを作っていきました

そのキュリレンコは、テレンス・マリック監督の新作『To the Wonder』(12)にも出演していますね。

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