『アリラン』 『SHAME―シェイム―』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『アリラン』 キム・ギドク

キム・ギドクはなぜ『悲夢』以後、沈黙してしまったのか。その理由はこの『アリラン』で明らかになる。『悲夢』の撮影中に女優が危うく命を落としかける事故が発生した。その事故で衝撃を受けたことをきっかけに、国際的な名声と国内での低い評価のギャップ、彼のもとを去った映画仲間の裏切りなどが重くのしかかり、作品が撮れなくなった。この映画では、そんなギドクが徹底的に自分(第二のギドク、第三のギドク)と向き合う。

ギドクは大好きな監督であり、これまで観た作品のなかでいいと思えなかったのは『悲夢』だけだが、この『アリラン』はしんどかった。ギドクのすごさは、言葉に頼ることなく、外部と内部、見えるものと見えないもの、向こうとこちらといった境界や象徴的な表現を駆使して、独自の空間を構築し、贖罪や浄化、喪失の痛みや解放などを描き出してきたところにある。

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『RIVER』 『NINIFUNI』 試写



試写室日記

本日は試写を2本。

『RIVER』 廣木隆一

秋葉原の無差別殺傷事件で恋人を失ったヒロインが、秋葉原で恋人の痕跡をたどり、様々な人物との出会いを通して次第に立ち直り、未来に踏み出していく。

秋葉原の事件を題材にした作品で筆者が思い出すのは、佐々木友輔監督の『夢ばかり、眠りはない』だ。あの映画では、事件へのこだわりや、それを題材にする必然性が感じられたし、秋葉原から取手の郊外へと視点が移行していく展開にも説得力があった。

この『RIVER』の場合は、その必然性が弱い。事件は、秋葉原を舞台にした世代論的なドラマを描くためのきっかけにとどまっている。どうしてもこの事件でなければ表現できない喪失と再生の物語になってはいない。それを東日本大震災の被災地の光景と接続してしまうと、さらに焦点がぼやける。

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『灼熱の魂』劇場用パンフレット



News

カナダの異才ドゥニ・ヴィルヌーヴの独自の話術と世界に迫る

カナダのアカデミー賞であるジニー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞など主要8部門を独占し、米国アカデミー賞の最優秀外国語映画賞にノミネートされた傑作『灼熱の魂』。この映画の劇場用パンフレットに「物語の力――偶然と必然の鮮やかな反転」というタイトルで作品評を書いています。

これを読めばどうしてももう一度観たくなる。そういう原稿になっていると思います。劇場で作品をご覧になりましたらぜひパンフもチェックしてみてください。

『人生はビギナーズ』試写



試写室日記

本日は試写を1本。

『人生はビギナーズ』 マイク・ミルズ

マイク・ミルズの新作。彼のプライベートストーリーの映画化だが、これはほんとに素晴らしい。というより凄い。心を揺さぶられるだけではなく、サバービアや歴史に対する視点など実に奥が深い。

マイク・ミルズの父親は、45年連れ添った妻に先立たれたあと、75歳にして「同性愛者として残りの人生を楽しみたいんだ」とカミングアウトし、その言葉通りに人生を愉しみ、告白から5年後に他界したという。

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ベント・ハーメル 『クリスマスのその夜に』 レビュー



Review

人生の様々な局面をくぐり抜け、新たな生命の誕生が祝福される

『キッチン・ストーリー』や『酔いどれ詩人になるまえに』のベント・ハーメル監督の新作は、ノルウェーの人気作家レヴィ・ヘンリクセンの短編集の映画化だ。『クリスマスのその夜に』では、クリスマス・イヴを迎えたノルウェーの田舎町を舞台に、複数の登場人物の複数の物語が交差しながら展開していく。

結婚生活が破綻し、妻に家を追い出されたパウルは、サンタクロースに変装して、妻と新しい恋人と子供たちがイヴを過ごすかつての我が家に忍び込み、なんとか子供たちにプレゼントを渡そうとする。

なぜか一人で町をうろつく少年トマスは、上級生の少女ビントゥに声をかけられる。イスラム教徒だからクリスマスを祝わないというビントゥに、トマスも「うちもサンタを信じていない」と小さな嘘をつき、彼女の家に立ち寄ることになる。

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