パオロ・ソレンティーノ 『グレート・ビューティー/追憶のローマ』 レビュー
永遠と喪失の狭間で
スイスにあるホテルを舞台にしたパオロ・ソレンティーノ監督の『愛の果てへの旅』(04)には、ホテルのラウンジで主人公の近くに座っている女性客が彼女の友人に、フランスの作家セリーヌの『夜の果てへの旅』の一節を読んで聞かせる場面があった。『グレート・ビューティー/追憶のローマ』は、同じ小説の冒頭部分の引用から始まる。このセリーヌの言葉はドラマと深く結びついているが、まず注目したいのは旅への言及だ。
ソレンティーノは、主人公の内なる旅を繰り返し描いてきた。ある事情で8年もホテルに幽閉されている『愛の果てへの旅』の会計士、寝たきりの母親と暮らす『家族の友人』(06)の高利貸し、ダブリンで世捨て人のように暮らす『きっと ここが帰る場所』(11)のロックスター。彼らは人を寄せつけず、まるで固まってしまったかのように単調な日々を過ごしているが、予期せぬ出会いや家族の死をきっかけに心が動き、内なる旅を通して自分が何者なのかを発見していく。ソレンティーノは、そんな旅をシュールな映像と変化に富む音楽で鮮やかに表現してきた。