『ポルトガル、ここに誕生す~ギマランイス歴史地区』 レビュー

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世界文化遺産という共通の歴史と独自の世界観を持つ監督たちが奏でる不協和音

ポルトガルから届けられたオムニバス映画『ポルトガル、ここに誕生す』を楽しむためには、この企画の発端を頭に入れておく必要がある。

ポルトガル北西部に位置する古都ギマランイスは、〝ポルトガル発祥の地〟とされ、旧市街地が2001年に(映画の副題にもなっている)〝ギマランイス歴史地区〟としてユネスコの世界文化遺産に登録されている。そんな街がEUによって2012年の〝欧州文化都市〟に指定され、一年間にわたって様々な文化事業が繰り広げられることになり、その一環としてこの映画が製作された。

そこでまず確認しておきたいのは、文化遺産と映画の相性だ。筆者が思い出すのは、フランスの古典学者フランソワ・アルトーグの『「歴史」の体制』のことだ。本書によれば、フランスでは、80年代に記憶と遺産の大ブームが起こり、90年代に遺産化が加速したという。その遺産化のなかで、遺産建造物が法令によってこう定義される。

我々の遺産、それは我々の歴史の記憶であり、我々の国家的同一性の象徴である

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ミゲル・ゴメス 『熱波』 レビュー



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幽霊の噂とは何か、ポルトガルの新鋭による“消え去ったものの痕跡”についての考察

ポルトガル映画界の新鋭ミゲル・ゴメス監督の『熱波』は、緻密に構築されたモノクロの映像世界が実に不思議な印象を残す作品だ。

その物語は、現代ポルトガルの都市を舞台にした「楽園の喪失」と植民地時代のアフリカを舞台にした「楽園」の二部で構成されている。

第一部に登場するのは、80代の孤独な老女アウロラと彼女の世話をするメイドのサンタ、そして彼らの隣人で、定年後に奉仕活動に精を出すカトリック信者の女性ピラール。病に倒れ、死期が近いことを悟ったアウロラは、ベントゥーラという男を探すように二人に頼む。見つかったベントゥーラは、アウロラの死に目には間に合わないが、二人に50年前の出来事を語り出す。

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『ペーパーボーイ 真夏の引力』 『熱波』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ペーパーボーイ 真夏の引力』 リー・ダニエルズ

『プレシャス』で注目を集めたリー・ダニエルズ監督の新作は、ピート・デクスターのベストセラー小説の映画化。まだ人種差別が色濃く残る60年代末の南部フロリダを舞台にした異色のノワールだ。

もちろんミステリーとしての謎解きもあるし、暴力やセックスの描写は強烈な印象を残すが、必ずしもそれらが見所というわけではない。

前作の原作であるサファイアの『プレシャス』(最初は『プッシュ』だったが、いまは映画にあわせたタイトルに変更されている)の場合もそうだが、ダニエルズ監督は自分の世界を表現するのにふさわしい題材を選び出していると思う。

彼が、ゲイであることをカムアウトしていて、子供の頃にインナーシティの低所得者向け公営住宅の黒人家庭でどんな体験をしたかについては、「レーガン時代、黒人/女性/同性愛者であることの痛みと覚醒――サファイアの『プッシュ』とリー・ダニエルズ監督の『プレシャス』をめぐって」のなかで触れた。

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Official videoclip for Arborea “A Little Time”

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ふたつの<A Little Time>、美しい自然とポルトガルの路地裏

アメリカのなかでも広大な森林地帯を抱えるメイン州。Buck CurranとShanti Curranという夫婦のユニットArboreaの音楽の背景には、そんな豊かな自然がある、ということは前に書いた。

新作『Red Planet』の最後に収められた<A Little Time>のPVが2本アップされていた。1本目は、La Foret des Renardsが手がけたPV。2本目はポルトガルのbodyspace.netのために作られたPV。映像のコンセプトはまったく違うだけでなく、曲の音源も違うので、聞きくらべると面白い。

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