『LETO -レト-』|ニューズウィーク日本版のコラム「映画の境界線」記事+ロシア語のロックの歌詞が持つ意味に関する補足

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80年代初期のロシアの貴重なロック・シーンが描かれる『LETO -レト-』

ニューズウィーク日本版のコラム「映画の境界線」の2020年7月22日更新記事で、キリル・セレブレンニコフ監督の『LETO -レト-』(18)を取り上げました。

ペレストロイカ以前の80年代初頭、モスクワと並ぶロックの中心地だったレニングラードを舞台に、マイク・ナウメンコとヴィクトル・ツォイという実在のふたりのミュージシャンを軸に、当時のロックシーンを生き生きと描き出した作品です。

その記事のなかでも、ペレストロイカに至る30年間に及ぶロシアのロックの軌跡をまとめたアルテーミー・トロイツキーの『ゴルバチョフはロックが好き?ロシアのロック』(晶文社、1991年)を参照していますが、さらに本作を観るうえで参考になると思える記述をここに引用しておきます。

「ロシア語のロックの歌詞はどこがちがっているのか? 第一にソヴィエトでは、ロックの歌詞が西側諸国よりずっと大きな役割を持っている。この国のロッカーたちは、自分たちのやっている音楽がもともとは外国のものであるとつねに感じている。演奏技術も充分ではない。さらに、この国ではロック・ミュージックの重要な要素である商業性やダンスが西側と同じようには発展しなかった。こうしたことがいっしょになって、ソヴィエトでは歌詞にこめられた意味が重要な役割を持つようになった」

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80年代初期のロシアの貴重なロック・シーンが描かれる『LETO -レト-』

2020年7月24日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

アンドレイ・ズビャギンツェフ 『裁かれるは善人のみ』 記事

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ロシアの苛烈な現実を描き、さらに神話の域へと掘り下げる映画

ニューズウィーク日本版のコラム「映画の境界線」の第7回(10月16日更新)で、ロシアの異才アンドレイ・ズビャギンツェフ監督の『裁かれるは善人のみ』(14)を取り上げました。『父、帰る』(03)、『ヴェラの祈り』(07)、『エレナの惑い』(11)につづく4作目の長編になります。

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ロシアの苛烈な現実を描き、さらに神話の域へと掘り下げる映画|『裁かれるは善人のみ』

ニコラウス・ゲイハルター 『プリピャチ』 レビュー

Review

人類の未来をめぐる大きな物語の礎となるような日常の断片

ニコラウス・ゲイハルター監督の『プリピャチ』(99)では、チェルノブイリ原発事故から12年が経過した時点で、立ち入りが禁じられた“ゾーン”に暮らしていたり、あるいはそこで働いている人々の姿が映し出される。この映画から見えてくる世界の意味を明らかにするためには、ゾーンの外側に広がる世界と内側の世界で、どのように12年という時間が流れていたのかを確認しておくべきだろう。

この映画の製作年である99年から振り返ってみたとき、最も大きな事件は、ソ連の崩壊と冷戦の終結だといえる。そこから世界は変わった。ポストモダンという言葉がもてはやされ、歴史や人類の普遍の未来を語る大きな物語は終わりを告げ、ひとつの共通する世界が失われた。そういう認識が浸透していった。

政治学者のジョン・グレイは『グローバリズムという妄想』のなかで、後期近代資本主義は「人間を断片化された現実と意味のない選択の氾濫の中に放り出す」と書いている。確かに、情報の洪水のなかで近代の確実性は破壊され、大きな物語は失われたかに見えた。

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『裏切りのサーカス』 『ファウスト』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。まったく異なる意味でどちらも重量級といえる作品で、非常に見応えがあった。

『裏切りのサーカス』 トーマス・アルフレッドソン

スパイ小説の大御所ジョン・ル・カレが74年に発表した『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』の映画化。東西冷戦がつづく1970年代前半、英国諜報部<サーカス>上層部に潜むソ連の二重スパイ“もぐら”の正体をめぐって、<サーカス>と<KGB>の熾烈な情報戦が繰り広げられる。

本物のスパイは、銃撃戦やカーチェイスなどを繰り広げたりせず、人ごみに紛れ、物影にひそみ、緊張や孤独に耐え、静かに神経をすり減らしていく。「007」のように、舞台や人物がエキゾティシズムを漂わせることもない。

“もぐら”の正体を暴くという極秘任務を託されたジョージ・スマイリー(ゲイリー・オールドマンの抑えた演技が実に渋い)を中心に、登場人物たちが複雑に入り組むため、公式サイトに「必読」のコーナーが準備され、鑑賞前に最低限の設定を頭に入れていくことを勧めている。

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今週末公開オススメ映画リスト2012/03/01+α

週刊オススメ映画リスト

今回は『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』、『戦火の馬』、『ピナ・バウシュ 夢の教室』、『父の初七日』、『プリピャチ』(順不同)の5本です。

おまけとして『アリラン』のコメントをつけました。

『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』 ヴェルナー・ヘルツォーク

1994年南仏で発見されたショーヴェ洞窟、その奥には3万2千年前の洞窟壁画が広がっていた。フランス政府は貴重な遺跡を守るため、研究者や学者のみに入場を許諾してきた。ここに初めてヘツルォーク率いるスタッフが入り、3Dカメラによる撮影を敢行した。(プレスより)

野生の牛、馬、サイ、ライオン、あるいはフクロウ、ハイエナ、ヒョウなど、その豊かな表現力には息を呑む。「CDジャーナル」2012年3月号にこの作品のレビューを書いておりますので、ぜひお読みください。で、そのレビューを補うようなことをこちらに。

この映画から浮かび上がる世界は、『グリズリーマン』(05)や『Encounters at the End of the World(世界の果ての出会い)』(07)といったヘルツォークの近作ドキュメンタリーを踏まえてみるとさらに興味深いものになる。

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