ポール・グリーングラス 『キャプテン・フィリップス』 レビュー

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見えない力がせめぎ合う状況のなかで、いつしか最前線に立たされている者たちの悲劇

ポール・グリーングラス監督の新作『キャプテン・フィリップス』は、2009年にオマーンの港からケニアに向かうアメリカ籍のコンテナ船がソマリア沖で海賊に襲撃された事件の映画化だ。

乗組員20名、非武装のアラバマ号は、わずか4人のソマリア人海賊にあっけなく占拠される。そして船長のフィリップスには、さらなる苦難が待ち受けている。乗組員を守り、船を解放しようとした彼は、海賊とともに救命艇に乗せられ、人質となってしまう。

この映画は、フィリップスの勇気ある行動に注目が集まるはずだが、見所はそれだけではない。同じように実話を扱ったグリーングラスの過去の作品と新作には共通点がある。

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『ザ・イースト』 『ダラス・バイヤーズクラブ』 試写

試写室日記

本日は試写を2本。

『ザ・イースト』 ザル・バトマングリ

主演から脚本・製作までこなす才女ブリット・マーリングと新鋭ザル・バトマングリ監督のコラボレーション第2弾。いまハリウッドで注目を集める彼らが選んだ題材はエコテロリズム。

マーリングが演じるのは、テロ活動からクライアント企業を守る調査会社に採用された元FBIエージェントのジェーン。サラと名前を変え、正体不明の環境テロリスト集団<イースト>に潜入した彼女は、大企業の不正や被害者の実情を知るうちに、彼らの信念に共感を抱くようになるが…。

キャストは、<イースト>のリーダー、ベンジーにアレクサンダー・スカルスガルド、<イースト>の重要メンバー、イジーにエレン・ペイジ、調査会社の代表シャロンにパトリシア・クラークソンという顔ぶれ。

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マルガレーテ・フォン・トロッタ 『ハンナ・アーレント』 レビュー

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絶対的無罪と絶対的有罪の鏡を砕くための揺るぎない思考

ニュー・ジャーマン・シネマを牽引してきた女性監督マルガレーテ・フォン・トロッタの『ハンナ・アーレント』では、ユダヤ人哲学者ハンナ・アーレントの生涯のなかで、1961年に行われたナチス戦犯アドルフ・アイヒマンの裁判に前後する4年間のドラマが描き出される。

強制収容所を体験しているアーレントは、自らの意志でアイヒマンの公判を傍聴してレポートを「ニューヨーカー」誌に連載し、その後『イェルサレムのアイヒマン』にまとめた。彼女の目に映ったかつてのナチス親衛隊中佐は、怪物や悪魔ではなく平凡な人間だった。

ちなみに、10数年前に公開されたエイアル・シヴァン監督の『スペシャリスト 自覚なき殺戮者』は、アーレントのこの著書をもとにアイヒマン裁判の膨大な記録映像を編集したドキュメンタリーだった。その作り手たちは、エチオピアの飢饉やルワンダのジェノサイド(「隣人による殺戮の悲劇――94年に起ルワンダで起こった大量虐殺を読み直す」参照)という同時代の現実を踏まえた上でアイヒマンに着目した。

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小林政広インタビュー 『日本の悲劇』



トピックス

決めたことをやり遂げる人間、
日本の縮図としての小さな家族

仲代達矢を主演に迎え、老人と孫娘の絆を描いた『春との旅』(10)で数多くの賞に輝いた小林政広監督。新作『日本の悲劇』の主人公は、古い平屋に二人で暮らす老父とその息子だ。妻子に去られた失業中の息子は、老父の年金に頼って生活している。自分が余命幾ばくもないことを知った老父は、自室を閉鎖し、食事も水も摂らなくなる。

『春との旅』の後で、仲代さんからもう一本作ろうと言われていたんです。『春との旅』はこれまで自分が作ってきたものとは少し毛色が違っていて、それでわりと日本で評価されたので、どうせなら全然違うものをやりたい、また元に戻りたいと思っていました。そんな時に年金不正受給事件のニュースを見て、そんなことがあるんだとちょっと驚いたのが始まりです

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マルコ・ベロッキオ 『眠れる美女』 レビュー

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鍵を握るのは眠りつづける女、しかし眠っているのは本当に彼女たちだけなのか

マルコ・ベロッキオ監督の『眠れる美女』の出発点は、2009年にイタリア社会を揺るがせた尊厳死事件にある。17年前に植物状態となった娘の延命措置の停止を求める父親の訴えが最高裁でようやく認められるが、教会を始めとする世論の激しい反発が巻き起こり、保守層の支持を集めるベルルスコーニ首相は、延命措置を続行する法案を通そうとする。

この事件をそのまま映画にしていれば、おそらく賛否の単純な二元論に回収されてしまっただろう。だがベロッキオ監督は、賛否に揺れる社会を背景にして、三つの物語を並行して描き出していく。

妻の延命装置を停止させた過去を持つ政治家とそんな父親に対する不信感を拭えない娘。輝かしいキャリアを捨てて植物状態の娘に寄り添う元女優とそんな母親の愛を得られない俳優志望の息子。自殺衝動に駆られる孤独な女と不毛な日常に埋没しかけている医師。それぞれの関係には溝があるが、彼らは限られた時間のなかで根源的な痛みを知る体験をし、変貌を遂げていく。

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