リチャード・リンクレイター 『バーニー/みんなが愛した殺人者』 レビュー

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全米第一の州にならんとする、勢いのあるテキサスとは違う、もうひとつのリアルなテキサス

リチャード・リンクレイター監督の『バーニー みんなが愛した殺人者』は、1996年にテキサス州の田舎町で実際に起こった殺人事件に基づいている。脚本を手がけているのは、「テキサス・マンスリー」誌のライターで、98年に事件の記事を同誌に書いたスキップ・ホランズワースだが、事件の真相に迫るジャーナリスティックな作品というわけではない。しかし、笑えるからといって、単なるコメディになっているわけでもない。

テキサス州東部にある田舎町カーセージの葬儀社で働くバーニーは、住民の誰からも愛される町一番の人気者だ。仕事を完璧にこなすだけでなく、町の美化運動を推進したり、短大の演劇部で音楽監督を務めるなど、市民活動でも貢献している。そんな彼は、石油で莫大な財を築いたドゥエイン・ニュージェントの葬儀で未亡人のマージョリーに出会う。

高慢でわがままな彼女は町一番の嫌われ者だ。バーニーはそんな彼女に親身になって接し、彼女の方も彼だけには心を開くようになる。やがて彼は葬儀社を辞め、マージョリー専属のマネージャーになり、資産の管理をまかされる。だが、マージョリーの支配欲は日に日に激しさを増し、精神的に追い詰められた彼は、ある日、衝動的に彼女を射殺してしまう。

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小林政広 『日本の悲劇』 レビュー



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現代日本の無縁社会のなかで、老父はなぜ即身仏になる道を選ぶのか

小林政広監督が「年金不正受給事件」に触発されて作った『日本の悲劇』の主人公は、古い平屋に二人で暮らす老父とその息子だ。老父は自分が末期ガンで余命幾ばくもないことを知っている。妻子に去られた失業中の息子は、老父の年金に頼って生活している。

物語は、入院していた老父が息子に付き添われて家に戻ってくるところから始まる。その翌朝、老父は自室を封鎖して食事も拒み、残された息子は混乱に陥っていく。

この物語のもとになっているのは、111歳とされていた男性がミイラ化した遺体で見つかった事件だと思われるが、小林監督のアプローチは非常に興味深い。

映画には、3.11の悲劇や無縁社会、格差や自殺といった多様な要素が盛り込まれている。そうした現実に迫ろうとするのであれば、普通はこの事件の即身仏という要素は切り捨てたくなるところだろう。興味本位に見られかねないからだ。ところがこの映画では、即身仏が明確に意識されている。

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フアン・アントニオ・バヨナ 『インポッシブル』 レビュー

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イニシエーションなき時代における大人になるためのイニシエーションを描いた映画

スペインの新鋭フアン・アントニオ・バヨナ監督の『インポッシブル』は、多くの犠牲者を出した2004年のスマトラ島沖地震で被災し、苦難を乗り越えて生還を果たした家族の実話に基づいている。この映画には、大きく分けて三つの見所がある。

まず、大津波の現実が、凄まじい臨場感で非常にリアルに再現されている。私たちは、過去ではなく現在進行形の出来事として、この未曾有の災害を追体験することになる。

それから家族の絆だ。主人公は、ヘンリーとマリアのベネット夫妻とルーカス、トマス、サイモンという3人の息子たち。タイのリゾート地で休暇を過ごしていたこのイギリス人一家に大津波が襲いかかる。マリアと長男のルーカスは激しい濁流にのみ込まれ、他の3人と引き離されてしまう。過酷なサバイバルを余儀なくされるマリアとルーカス、そして必死に二人を探し続けるヘンリー。彼らの姿からは、家族の強い絆が浮かび上がってくる。

このふたつは、映像やドラマからダイレクトに伝わってくるので、あまり言葉を費やす必要もないだろう。だがこの映画にはもうひとつ、見逃せないテーマが盛り込まれている。それは、ルーカスにとってこの体験が、大人になるためのイニシエーション(通過儀礼)になっているということだ。

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クリスティアン・ムンジウ 『汚れなき祈り』 レビュー



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現代ルーマニア社会を炙り出すムンジウの視線

クリスティアン・ムンジウ監督の新作『汚れなき祈り』は、実際に起きた事件に基づいているが、その忠実でリアルな再現ではない。私たちがこの映画に深く引き込まれるのは、ムンジウ監督の独自の視点と表現が、単なるリアリズムとは一線を画す世界を切り拓いているからだ。

それがどんな視点と表現であるのかは、カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた前作『4ヶ月、3週と2日』と対比してみることでより明確になるだろう。なぜなら、二作品は時代背景が異なるにもかかわらず、興味深い接点があるからだ。

『4ヶ月、3週と2日』では、1987年というチャウシェスク独裁の時代を背景に、寮のルームメイト、ガビツァの違法な中絶手術を成功させるために奔走する大学生オティリアの一日が描き出される。この映画で最も印象に残るのは、ホテルの一室でオティリアとガビツァ、そして闇医者が向き合う場面だろう。

ムンジウ監督は、鋭い洞察によって三者の微妙な力関係を浮き彫りにしていく。まずガビツァが、友人の不確かな情報を真に受け、妊娠の時期や手術料などについて、嘘をついていたり、憶測で判断していたことが明らかになる。一方、闇医者は相手の弱みにつけ込み、権力を振りかざし、ガビツァだけではなくオティリアにまで理不尽な要求を突きつける。そして、閉ざされた空間で巻き添えとなったオティリアは、大きな犠牲を払うことになる。そんな緊迫した状況を、ワンシーン・ワンカットの長回しで見事に切り取っているのだ。

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『日本の悲劇』 レビュー & 小林政広監督インタビュー



News

孤立する家族、無縁社会、格差、3.11の悲劇、そして即身仏

遅くなってしまいましたが、8月31日(土)より公開中の小林政広監督の新作『日本の悲劇』に関する告知です。

東京都内で111歳とされる男性のミイラ化した遺体が見つかり、家族が年金を不正受給していた事件は大きな注目を集めました。小林監督が『日本の悲劇』を作るうえでインスパイアされたのは、この年金不正受給事件です。

主人公は、古い平屋に二人で暮らす老父とその息子です。妻子に去られた失業中の息子は、老父の年金に頼って生活しています。そして、自分が余命幾ばくもないことを知った老父は、自室を閉鎖し、食事も水も摂らなくなります。

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